イギリス生まれの伝説のSF特撮「サンダーバード」。
日本上陸55周年を記念して、当時の撮影手法そのままに制作された”完全新作”劇場版の公開が決定し、話題になっています。
今回は、1965(昭和40)年にイギリス、翌1966(昭和41)年に日本で放送された、ジェリー・アンダーソンがスーパーマリオネーションを駆使した最高傑作として名高いTVシリーズ、オリジナルの「サンダーバード」をご紹介します。
「サンダーバード (Thunderbirds)」とは
「サンダーバード」は、1965~1966年にイギリスで放送された、人形劇による特撮TV番組。
日本でも1966(昭和41)年のNHKでの初放送以来、TBS、テレビ東京、フジテレビなど局をまたいで何度も何度も再放送され続け、2004年にはハリウッドで実写映画化、2015年からはCGリブート版「サンダーバード ARE GO」が放送されるなど半世紀以上にわたって、大人気を誇る”伝説の”作品です。
「サンダーバード(Thunderbirds)」
製作総指揮 ジェリー・アンダーソン
プロデューサー ジェリー・アンダーソン(第1期)/レッジ・ヒル(第2期)
製作 APフィルムズ
配給 ITCエンターテインメント
放送期間 1965年9月30日 – 1966年12月25日
▲実写版映画とCGリメイクによる「THUNDERBIRDS ARE GO」
オリジナルの「サンダーバード」
TVシリーズが全32話、劇場用映画が2本制作されました。
世界各地で事故や災害が起こり、絶体絶命の危機に瀕すると、「国際救助隊(IR―International Rescue)」と名乗る”秘密組織”がスーパーメカを駆使、人々を救助する活躍を描く、1時間枠のTV番組です。
この”秘密組織”は、ジェフ・トレーシーという元宇宙飛行士が、土木建設や特許事業によって得た巨万の富を元に設立した「私設の国際救助隊」。
あらゆる国家、政治とは中立を保ち、あくまでも「慈善事業」として、国家や敵と戦うのではなく「人命救助」のみのために一家で動く、という点が崇高過ぎますね。
ハイクオリティな特撮・影響を受けた作品
「人形劇」でありながら細部まで精巧に作り込まれた造形や洗練されたデザインのメカ、ロケット噴射や車両走行中の土ぼこりの描写など重厚感とリアリティを追求した特撮技術は、現在でも再現が困難なほどの驚異的なクオリティ。
円谷プロの「ウルトラセブン」や「マイティジャック」をはじめ、以降の特撮作品に多大な影響を及ぼしました。
「サンダーバード」の製作スタッフたちは後にハリウッドでも活躍。ミニチュアを使った特撮、という意味ではスタンリー・キューブリック「2001年宇宙の旅」やスティーブン・スピルバーグ&ジョージ・ルーカスの「スターウォーズ」も、本作の影響下にあると言っても過言ではありません。
スーパーマリオネーション
「サンダーバード」は前作「海底大戦争 スティングレイ」同様、「スーパーマリオネーション」と呼ばれる技法で撮影されています。
なんと事前に録音されたセリフ音声に連動して人形の唇を動かすという仕組み(リップ・シンクロ・システム)を持ち、4種類の表情を持つ顔で表情を変えながら、丁寧に撮影されています。
華麗なるファッション
最先端のモードを取り入れたファッションは、いま見ても古臭さを感じません。当時のイギリスではメインターゲットの男子児童だけではなく女子児童の関心もつかみ「番組に登場するキャラクターをベースにしたファッション情報誌が刊行された」というエピソードも頷けます。
黒柳徹子さんが声優を務めたことで有名な「ペネロープ」はいつもオシャレでしたね。
バリー・グレイによる音楽
「サンダーバード」といえばあの有名なテーマ曲。いまだにTVバラエティなどでメカニックが登場するシーンでは定番の、勇壮かつドラマチックなオーケストレーションの名曲です。それ以外にも緊迫の救出シーン、コミカルな場面、アットホームなシーン・・・上質なBGMが、表情のない登場人物たちの感情を補完する役割を果たしていたと思います。
この曲をはじめ「サンダーバード」で音楽を担当したバリー・グレイは1908年生まれ。ロンドンで独学で音楽を学び、1940年に召集されて空軍へ。空軍ダンスバンドの指揮・編曲者として活躍した経歴を持ちます。
終戦で除隊後、BBCで編曲などをしているときに“イギリス軍の恋人”と称された国民歌手ヴェラ・リンの専属ピアニスト・編曲家となり、その縁でプロデューサー、ジェリー・アンダーソンと出会う。そして「スーパーカー」(1961)、「宇宙船XL-5」(1962)、「海底大戦争 スティングレイ」(1964)などのSF人形劇ドラマの音楽を続けて担当し、6作目が「サンダーバード」(1965~66)でした。
1979年には、ロイヤル・アルバート・ホールの音楽祭に招かれ、93人編成のナショナル・フィルハーモニック管弦楽団を指揮、「サンダーバード」を含む自作組曲を演奏。翌年には女王陛下の入場ファンファーレを作曲。1984年に75歳で亡くなりました。
ちなみに・・・あの「5,4,3,2,1」のカウントダウンの声は「パパ」ことジェフ・トレーシーの声優、ピーター・ダイネリーのものです。
日本での放送
日本での初放送は、1966(昭和41)年4月10日から1967年4月2日の1年間、NHK総合テレビで日曜夕方の18:30~18:50でした。ちなみにこの昭和41年は、あの「ウルトラマン」の初放送の年でもありました。
ほとんど間を開けず同年7月からはTBS(土曜16:30~17:30)、1970(昭和45)年からはテレビ東京で土曜の19時から、80年代以降はTBS、フジテレビ、90年代は再びテレビ東京、2000年代に入るとNHKと、延々と再放送が繰り返されています。
TBSでの初放送時(1967/昭和43年)はプラモデルのライセンス生産を行っていた今井科学株式会社の1社スポンサー。この時初めて、オープニングで日本語の歌詞をつけた日本オリジナルの「サンダーバードの歌」(ロイヤル・ナイツとビクター少年合唱隊)が使用されました。
人気が爆発したプラモデル
初回放送当時、爆発的人気となったサンダーバード各機や秘密基地のプラモデルは、今井化学(イマイ)製でした。その後、青島文化教材社(アオシマ)が旧イマイ製の金型を受け継ぎ再発売。
番組が人気が出て、プラモデルで再燃してブームが長く続くという点では、「サンダーバード」は後の「機動戦士ガンダム」の源流と言えるかもしれません。
プラモデルのボックスアート(箱絵)を多数手がけたのが、小松崎茂さんです。リアルでカッコイイ、男子心をくすぐりまくりの小松崎さんのイラストが、日本におけるサンダーバード人気を大きく後押ししたと思います。
アメリカではイマイチ?
日本では初放送から大人気で、当時の円谷プロをはじめとする特撮制作スタッフが上映会でその技術を学び、実際にイギリスのプロダクションに研修に行くほど熱心なフォロワーが生まれました。さらにプラモデルがバカ売れしたことで、のちの特撮番組のマーチャンダイズのフォーマットが確立するなど、非常に大きな影響を与えました。
その一方「サンダーバード」はアメリカでは3大ネットワークへの売り込みが失敗に終わったことで商業的には成功せず、知名度も低いのだそうです。
これは子供向け番組としては1時間番組は長すぎた、イギリスでの人気を背景に放送権料を吊り上げすぎた、メカ好きなイギリス人と日本人に対してアメリカではマッチョなキャラが好まれるからなど、さまざまな説があります。
サンダーバード・メカと主要キャラクター
なんといっても「サンダーバード」といえば、救助メカの魅力です。
いまだにプラモデルが売れ続けていますし、ディアゴスティーニの「サンダーバード2号を作ろう」は、当時にプラモデルを作りまくった大きなお友達の垂涎の的でした(笑)。
サンダーバード1号/スコット・トレーシー
シルバー色の超音速有人原子力ロケット。プールがスライドして発進、地球上のあらゆる場所に60分以内に到着でき、いち早く現着して移動司令室の役割を果たします。
パイロットは長男のスコット・トレーシー。
サンダーバード2号/バージル・トレーシー
登場メカ中でも1番人気の、濃緑色の超音速有人原子力輸送機。救助に必要なメカ、機材を搭載したコンテナポッドを換装し、ハリアー状に垂直離着陸が可能。搭乗時はさかさまになって滑り台を降りるシークエンス、出動時にはカムフラージュのヤシの木が倒れます。
パイロットは、三男バージル・トレーシー。
サンダーバード3号/アラン・トレーシー
オレンジ色の単段式有人原子力ロケット。宇宙ステーションである5号との往還機として活躍。指令所のソファーごと地下に降りて登場するシークエンスでした。
パイロットは末っ子のアラン・トレーシー。
サンダーバード4号/ゴードン・トレーシー
黄色い原子力潜航艇。水中での救助の際は独壇場でした。いつもはサンダーバード2号の4番コンテナポッドで輸送されて出動。ごくたまにトレーシー島から単独で発進する場合も。
パイロットは四男のゴードン・トレーシー。
サンダーバード5号/ジョン・トレーシー
シルバー色の原子力有人宇宙ステーション。情報収集用人工衛星で、地球上のSOSをキャッチする役目。3号とドッキングすることが可能。次男ジョン・トレーシーがメイン、たまに末っ子のアラン・トレーシーが交代で滞在。
ちなみに・・・日本では長らく「バージルが次男」とされてましたが、正しくはこっちが次男でバージルが三男なのだそうです。
ジェット・モグラ
地底での救助で活躍する戦車で、日本ではプラモデルの影響で、異常に人気がありました。
実は「ジェット・モグラ」はプラモデル用のネーミングで、本作では“The Mole(モグラ)”と呼ばれています。2号のコンテナ3(または5)で輸送されます。
そのほかにも、高速エレベーター・カーやジェット・ブルトーザー、鉄の爪タンクなどが人気でした。
その他のキャラクター
「サンダーバード」には司令官である父親、1号~5号のメカに登場する兄弟たち以外にも、個性的なキャラクターが数多く登場します。
悪役のフット、ペネロープの運転手であるパーカー、これらのメカを発明して1人でメンテナンスまで行う(!?)ブレインズ・・・。
子供向け番組なのに子供が登場せず、大人たちが出演者であり、「1時間枠」でしっかりとしたドラマを演じる点が、かえって「子供だましを嫌う」子供たちにウケた気がします。
当然人形なので表情は乏しく、最初は違和感を覚えるのですが、見続けているとそれがかえって妙なクセになる面白さがありました。
コメント
実写版映画、CGリメイク版はちょっとガッカリだったので、今度の新作映画は少し期待しております。NHKでの初放送の時から人気があって放送を休めなかったため、終わりの方はイギリスより2週間ほど日本の方が放送が早かったそうです。製作費も1本2千万円だったとか。最初から世界的なセールスを考えて作られていたのではないでしょうか。アメリカに受け入れられなかった理由としては「サンダーバード」を売りこもうとしていた65から66年というのは、イギリス作品を少し締め出そうという風潮があった事も関係しているみたいです。ゴールデンタイムにもうわざわざ外国作品は入れないよというわけです。1時間番組だったので子供向け番組として食いこめなかったのが1番の理由だとは思いますが。
コメントありがとうございます!新作劇場版、楽しみですね。なるほど、当時のアメリカでそんな動きがあったのですね。逆に日本での人気の高さが異常なのかもしれませんが、特撮好きな日本から見ると、こんなものすごいものがイギリスで?という驚きと嬉しさもありましたよね。子供向けで1時間枠というのは豪華ですが、制作はシンドかったでしょうね。いま見ても1作1作が映画並みの見ごたえがあります。