2022年に放送開始50周年を迎えた、昭和の特撮ヒーロー「アイアンキング」。
令和の現在に突如、福岡地区水道企業団の「節水啓発ポスター」に起用され、SNSで話題となりました。
さらには定期的に「最終回とウルトラマンにまつわる都市伝説」が、ネタとしてメディアに取り上げられる作品でもあります。
そこで今回は、「数ある昭和特撮巨大ヒーローの中でも、異色中の異色作」、そして「史上最弱のヘタレヒーロー」と言われるアイアンキングとは?前々作である「シルバー仮面」との関係性も交えて、解説します。
アイアンキングとは
「アイアンキング」は、1972(昭和47)年にTBS系で放送された特撮TV番組。
別記事で解説した「シルバー仮面」と同じ宣弘社が制作し、1958(昭和33)年の「月光仮面」から長く続く、TBS・日曜19時の「タケダアワー」17作目の番組です。
「アイアンキング」
放送日:1972(昭和47)年10月8日~1973(昭和48)年)4月8日
TBS系/毎週日曜19:00~19:30/全26話
<出 演>
石橋正次、浜田光夫、森川千恵子、伊豆 肇、右京千昌、堀田真三、村松克己 ほか
<スタッフ>
プロデューサー:小林利雄/脚本:佐々木 守/監督:田村正蔵、外山 徹、福原 博
音楽:菊池俊輔/製作協力:日本現代企画/製作:宣弘社
<あらすじ>
日本政府の転覆を企む不知火一族が、巨大ロボットを使って破壊活動を開始した。国家警備機構から派遣されたエージェント・静弦太郎は、相棒の霧島五郎とともに、旅をしながら不知火一族と戦う。弦太郎がピンチになると、五郎は巨大ヒーロー・アイアンキングに変身、弦太郎の力を借りて、巨大ロボットを倒していく!
タケダアワーとは
タケダアワーとは、1958年2月から続くTBS日曜、武田薬品が1社スポンサーを務める19時~19時30分の放送枠。
いまでは「タケダアワー」といえば「ウルトラQ」「ウルトラマン」「ウルトラセブン」「怪奇大作戦」の円谷プロ・特撮番組が有名ですが、その歴代作品は、時代劇やスポコン実写ドラマなど、バラエティに富んでいます。
01. 月光仮面(1958年2月24日 – 1959年7月5日)
02. 豹(ジャガー)の眼(1959年7月12日 – 1960年3月27日)
03. 泣き笑いさくらんぼ劇団(1960年4月3日 – 7月31日)
04. 夕やけ天使(1960年8月7日 – 1962年9月30日)
05. 隠密剣士(1962年10月7日 – 1965年3月28日)
06. 新・隠密剣士(1965年4月4日 – 12月26日)
07. ウルトラQ(1966年1月2日 – 7月3日)
08. ウルトラマン(1966年7月17日 – 1967年4月9日)
09. キャプテンウルトラ(1967年4月16日 – 9月24日)
10. ウルトラセブン(1967年10月1日 – 1968年9月8日)
11. 怪奇大作戦(1968年9月15日 – 1969年3月9日)
12. 妖術武芸帳(1969年3月16日 – 6月8日)
13. 柔道一直線(1969年6月15日 – 1971年4月4日)
14. ガッツジュン(1971年4月11日 – 11月21日)
15. シルバー仮面(1971年11月28日 – 1972年5月21日)
16. 決めろ!フィニッシュ(1972年5月28日 – 10月1日)
17. アイアンキング(1972年10月8日- 1973年4月8日)
異色のヒーロー「アイアンキング」の差別化ポイント
「アイアンキング」が放送された1972(昭和47)年は、特撮ヒーロー番組の爛熟期。
各番組は「巨大ヒーローなら『ウルトラマン』、等身大モノでは『仮面ライダー』と何が違うのか?」、明確な特長(ちびっこにとっての魅力)を打ち出すことに、制作陣は苦悶していました。
そこで生み出された本作「アイアンキング」の差別化ポイント1つ目は、「物語の主人公は、番組タイトルのヒーロー:アイアンキングではなく、相棒(普通の人間)である」というものでした。
そのため、敵を倒すのは、アイアンキング(に変身する霧島五郎(左))ではなく、「主役」の静弦太郎(右)。
さらに巨大ヒーローであるアイアンキングは「水をエネルギー源としているが、その消耗が激しいため活動時間がわずか1分と短い」弱点があり、番組当初は「主人公を助けに登場したものの逆にピンチに陥り一時退却。その後、主人公に助けられてなんとか敵を倒す」ストーリーがほとんど。6話までは派手な光線技も使いません。
後半(第16話~)からはアイアンキングが単独で敵を倒す描写も描かれるようになり、いわゆる王道の「特撮ヒーロー」となりますが、それでもあくまでも「アイアンキングは主人公(静弦太郎)のピンチを救う相棒」という設定が貫かれています。
これは「視聴者に生身のヒーローという親近感を持ってもらう」ことや、「1回の放送でアイアンキングを2回登場させて見どころを増やす」という効果を狙っての設定だったそうですが、これがアイアンキングがネット上で「史上最弱・ヘタレ・ポンコツ ヒーロー」と言われてしまう所以です。
もう1つの差別化ポイントは、主演を務めるのが当時、歌手・俳優としてアイドル的な人気を誇っていた石橋正次と、吉永小百合の相手役で数々の日活作品で活躍した浜田光夫という、当時の子供向け特撮ヒーローものとしては異色かつ豪華なコンビである点です。
石橋正次は、1970(昭和45)年、日活映画「非行少年 若者の砦」(藤田敏八監督)で主演デビュー。同年、人気絶頂の「あしたのジョー」の舞台、映画の双方に主演。さらに平均視聴率47.4%という驚異的な人気を誇ったNHK連続テレビ小説「繭子ひとり」に主人公の生き別れの弟役で出演。レコード歌手としても大ヒットを飛ばし、第23回紅白歌合戦に出場する「国民的人気もの」でした。
浜田光夫は、日活黄金時代後期に吉永小百合とのコンビで「キューポラのある街」(1962年)、「泥だらけの純情」(1963年)「愛と死をみつめて」(1964年)などの大ヒット作に次々出演し、トップスターとしての地位を確立。吉永との”純愛コンビ”作品は、44本にものぼります。
「シルバー仮面」とは違う「アイアンキング」の魅力
「アイアンキング」は、前々番組「シルバー仮面」と同じ宣弘社(実制作は日本現代企画)が制作。
「ウルトラマン」「怪奇大作戦」「シルバー仮面」なども手がけた佐々木守氏が、全話の脚本を担当しています(ちなみに佐々木氏は水島新司「男どアホウ甲子園」の原作も担当したお方です)。
主演の大物2名をキャスティングしたのも佐々木氏。そのほか夏純子さん、テレサ野田さん、大川栄子さん、岡崎友紀さん、坂口良子さんなど女性ゲストが豪華なのも、佐々木氏のツテだったそうです。
重くて暗かった「シルバー仮面」の反省から、本作「アイアンキング」は主人公2人の能天気・凸凹コンビ・珍道中をベースに、コミカル・軽快なアクションが志向され、当時の新聞広告には「ヤングアクションの決定版」「異色の特撮もの」と紹介されています。
アイアンキングに変身する霧島五郎はコメディタッチのお調子者として描かれ、その正体は主人公である静弦太郎でさえ知りません。アイアンキングで水分が切れて元の姿に戻った際には、エネルギー源の水をガブガブ飲みます。水がない場合はジュースやコーラ、雪を食べたりツララをしゃぶったりします。本人は次の戦いに備えてエネルギーを補給しているのですが、それを知らない周囲の人たちからしたら糖尿病?と疑われてもおかしくありません。
そして語り草なのが、主人公である静弦太郎の破天荒な活躍ブリ。用いる武器が「アイアンベルト」で、普段はペン状ですが戦闘時には発光して剣やムチになり、40メートルを超える巨大ロボットをブッ叩いて倒すという荒業をやってのけます。
その一方、敵組織に「大和朝廷によって歴史から抹消された一族の末裔」が登場したり、権力の非情さを鋭く描くなど、佐々木氏ならではのシリアスな面もしっかり描かれています。
アイアンキングは宇宙人ではなくロボット!?~変身・デザイン設定
アイアンキングは見た目からして宇宙人ぽいですが、実は「国際警備機構の津島博士が製作した、巨大戦闘用ロボット」。「登山中の落雷事故で死亡し、変身用システムを組み込まれ蘇生した霧島五郎が変身する」という設定です。
五郎が常に被っている帽子(ターニングハット)が変身アイテム。「アイアンショック!」という掛け声と共にポーズを取ると、帽子についたバッジからアンテナが伸び、アンテナから発する霧状の蒸気に包まれながら巨大化、変身します。
前述の通り水がエネルギー源で、活動時間はウルトラマンより2分も短いたったの1分。30秒で胸のアイアンスター、50秒で首筋のキングスター、1分を過ぎると額のアイアントップが点灯し、消えると強制的に五郎の姿に戻ってしまいます。
デザインを担当したのは池谷仙克氏。「ウルトラマン」や「ウルトラセブン」で特殊美術助手・美術監督・メカニックデザイン、特殊美術デザイナーを務め、「ウルトラセブン」では第31話から、降板した成田亨氏に替わって怪獣デザインも兼任されたお方です。
池谷氏によれば「頭部はシルバー仮面と同様、西洋甲冑のデザインを継承、そのため当初は全身が銀色を主体としたデザインだったが、児童受けするようにボディを赤にしろと注文が付き、不本意ながら赤になった」とのこと。初期デザインは敵のキャラで作中に登場しました。
そのため、見た目にウルトラセブン(とエース)に似た雰囲気になってしまいました。そしてそのことが、後述する「都市伝説」の原因となるのです。
菊池俊輔×子門真人の主題歌
OP主題歌「アイアンキング」
作詞:佐々木守 作曲:菊池俊輔 歌:子門真人
菊池サウンド+子門真人ボーカル炸裂の名曲です。作詞は全脚本を担当した佐々木守さん。
そしてやっぱりあの裏番組に負ける
「日曜夜7時の仁義なき視聴率戦争」の記事でも解説しましたが、この枠はフジテレビ系列の裏番組「ミラーマン」との激しい視聴率争いが繰り広げられました。
「アイアンキング」初回視聴率は、「ミラーマン」開始以後のタケダアワーでもっとも高い12.7%を記録。第5話では「ミラーマン」13.4%に対し、「アイアンキング」16.1%と遂に逆転に成功します。
しかし。
「ミラーマン」の後番組として開始されたロボットアニメ「マジンガーZ」第1話は、本作品を上回る16.8%を記録。
「マジンガーZ」人気は留まることを知らず第10話以降は20%を超え、「アイアンキング」は大きく引き離されたまま、終了となりました。
アイアンキングを語る上で、必ず出てくる「都市伝説」
一部で根強く囁かれる都市伝説。それは、「ウルトラマンが町を破壊する最終回を観た人がいる」というもの。そしてそれが実は「ウルトラマンではなく、アイアンキングの最終回の誤解だった」というオチまでがセットで、広く知られています。
これは本放送からだいぶ後の1985(昭和60)年にテレビ埼玉でアイアンキングが再放送された際、最終回の前・後編、25話と26話うち、後編の26話が放送されなかったことが原因、とされています。
アイアンキング25話「アイアンキング大ピンチ!」は、敵に憑依されマントを付けたアイアンキングが怪獣と共に街を破壊する、衝撃の展開で終わります。
そして続く26話「東京大戦争」(最終回)で、弦太郎がアイアンキングのエネルギー切れを誘い、その正体が相棒である五郎だったことを知って苦しむ五郎を救い、敵を撃退。ハッピーエンドで締めくくられました。
ところが、この再放送時にテレビ埼玉は26話を放送することなく25話で放送を打ち切ってしまったので、それを見た視聴者が困惑。さらにはその見た目からアイアンキングとウルトラマンが混同され、話にオヒレが付いて前述の「ウルトラマンが町を破壊する最終回を観た人がいる」という都市伝説になって広まった・・・という話です。
テレビ埼玉が26話を放送しなかった理由は、「プロデューサーがオリジナルのフィルムを借りたまま返却していなかった」ためだとか・・・いくら再放送とはいえ、その対応は雑過ぎますね。さらには「当時、視聴者から抗議の電話が殺到したため、そのトラウマで特撮番組の放送枠が消滅した(2014年「仮面ライダードライブ」再放送で復活)とも言われています。
▼<昭和特撮>カテゴリ記事一覧はコチラ
コメント