1980(昭和55)年10月。日本TVアニメ史黎明期の2大人気作品「鉄腕アトム」と「鉄人28号」が、立て続けにカラーリメイクされました。
手塚治虫、横山光輝両巨頭が描く漫画作品は雑誌「少年」連載時からのライバルであり、TVアニメ化も同じ1963(昭和38)年。日本のTVアニメ・30分レギュラー番組の草分けとなった作品です。
そしてその17年後、しかも放送開始が2日違いで、新作として復活。
「因縁の対決」となりました。
「鉄腕アトム」(1980)
「鉄腕アトム」
1980年10月1日~1981年12月23日 52話
日本テレビ系 水曜19:00~19:30
日本テレビ/手塚プロダクション
本作は、TVアニメ第1作の「鉄腕アトム(1963)」のクオリティに長年不満を抱いていた手塚先生宿願のリメイクであり、「手塚治虫が直接携わった最後のアトム作品」です。
日本初の本格的な1話30分の連続TVアニメ「鉄腕アトム」はフジテレビでしたが、本作は日本テレビ。モノクロからカラーに、また洗練された設定とクオリティで新たなアクション作品となった一方、「ロボットと人間の関係、交流」というテーマは引き継がれ、特にアトムのコピーロボ「アトラス」との戦いと複雑な関係性は、今なお「シリーズ最高」との評価もあります。
難航したリメイク企画
手塚作品の代表作「鉄腕アトム」のリメイク企画は1970(昭和45)年頃から何度も持ち上がり、1972(昭和47)年には小学館の「小学一年生」などの学年各誌で実写ドラマ企画と連動した漫画連載もされましたが、実現には至りませんでした。
この実写リメイク企画では少女がアトムを演じる予定で、学年誌連載版のアトムデザインは、その前提でアレンジされていました。
1974(昭和49)年にも改めてリメイク企画が始動。映画化の話もありましたが「やはりアトムはTVアニメで」となり、第1作を放送したフジテレビと協議がなされました。
しかし結果として「アトムをそのままリメイク」は叶わず。新作として「ジェッターマルス」が1977(昭和52)年から放送されました。
「ジェッターマルス」(1977)とは?
同作は手塚プロではなく東映動画が制作。手塚は直接現場に関わらない原作者ポジションでした。
手塚先生曰く、「アトムのリメイクがなかなか実現できなかったのは、第1作のスポンサーだった明治製菓が番組終了後もアトムの菓子の権利を引き続き保持していたため、他の製菓会社がスポンサーにつけなかったから」と語っています(「ジェッターマルス」のチョコレート菓子は、シスコから発売)。
この「ジェッターマルス」は当初、アトムの「続編」として、「最終回で死んだアトムに代わる、アトム2世としてのマルスが活躍する物語」が企画されました。
しかし、結果としては「アトムの要素と設定を取り入れつつ、アトムとは世界を異にする新たな作品」として制作されました。
東映の要望で対象年齢を下げ、主人公マルスの人間的成長物語を描いています。
手塚先生は初期企画、シリーズ初期のシノプシス、マルスのデザイン案などを手がけていますが、その後はアニメスタッフによるオリジナル色の強いものになっていきました。
TVアニメ第1作を手がけたりんたろう氏、旧虫プロダクション出身者が設立したマッドハウスの面々がメインスタッフとして参加。旧虫プロの杉野昭夫氏が、キャラクターデザインを務めています。
私は当時、このような背景はもちろん知りませんでしたが、「アトムみたいなマルス」は可愛くて、大好きでした。
日本テレビでのリメイクが決定した理由
こうして難航し続けたストレートなアトムのリメイクがようやく実現したのは、1978(昭和53)年の第1回から「24時間テレビ 愛は地球を救う」で放送された「バンダーブック」「マリン・エキスプレス」などの手塚アニメの好評が、きっかけでした。
>24時間テレビの手塚作品についてはコチラ
当時の日本テレビは「鉄人28号」「あしたのジョー2」「新・ど根性ガエル」などの旧作リメイクに積極的だったことも、追い風でした(これらリメイクアニメはすべて日本テレビ吉川斌プロデューサーが企画担当)。
原作・1963版との違い
原作・1963版では斜体と波線だったタイトルロゴが直線になり、本作以降は手塚先生自身もこのロゴを主に使うようになりました。
また原作は2003年、1963版は2013年とされていた時代設定が、本作では2030年になりました。
そしてもっとも異なるのが、天馬博士とのアトム誕生の経緯。
原作および1963版では「天馬博士は交通事故で亡くした息子トビオの代わりとしてアトムを作ったが、成長しないことに腹を立て、ロボットサーカスに売り飛ばしてしまう」ものでしたが、本作ではこの経緯が、かなり丁寧に描かれています。
アトムのスペック(7つの威力)は基本的に同じですが、通訳機能の対象言語が60カ国から160カ国に大幅に強化。これはその時代の「国連加盟国」にちなんだものなのだそうです。
①胸の中に電子頭脳。160カ国語を同時通訳できる。
②耳は音を1000倍に聞ける。
③サーチライトの目。
④10万馬力の力。重水素燃料による核融合エネルギー。
⑤腕と足はジェットで空を飛べる。
⑥お尻にマシンガン。1分間に600発撃てる。
⑦両手人指差し指にレザーブラストを装備。
声優陣は放送局が変わると一新されるのが当時の慣例でしたが、手塚先生たっての希望でアトム役の清水マリさん、お茶の水博士役の勝田久さんが続投。このお2人以外には考えられず、英断だったと思います。
アトラス
原作・1963版では1話限りのゲストキャラクターだったアトラスが、本作では全編を通じたライバルとして登場。赤銅色の肌に金色の髪を持つ、原作とは全く異なる姿で描かれました。
スカンク草井が盗んだ天馬博士のアトム設計図を丸パクリしてワルプル・ギス男爵が作り上げたロボットで、アトムにとっては弟にあたります(しかしなぜか最後の戦いではアトムに「兄さん」と呼ばれていました)。
手塚先生はこのアトム対アトラス=善と悪の明確な対立を、本作中にシリーズとして9本挿入。善も悪もそれぞれに弱さと悩みを抱えていることが、丁寧に描かれています。
主題歌
OP「鉄腕アトム」
作詞:谷川俊太郎 / 作曲:高井達雄 / 編曲:三枝成章 / 歌:アトムズ
1963版のOPを原曲としたアレンジバージョン。80年代らしいシンセとエレキギターによるジャパニーズロック調。キーとテンポは同じですが、リズムと歌い回しが異なります。
アレンジがなされたとは言え、放送局が変わったのに同じ楽曲が使用されたのは極めて異例で、このアトム以外には例がないと思います。
それでも、放映が始まると視聴者から「なぜ前作の曲を“そのまま“使わなかったのか」という抗議が相次いだ、と言われています。
それだけ1963年放送の主題歌の印象が強烈でアトムにピッタリ、かつ名曲だったのでしょう。
実は本作企画時はまったく新たな楽曲が準備されていたのですが、誰が聴いても「これのどこがアトム?」だったらしく、没に。もしそれに変えられていたとしたら、えらいことになっていたでしょうね。
ED1「未来に向って 〜ニュー鉄腕アトム〜」
作詞:手塚治虫 / 作曲・編曲:三枝成章 / 歌:ANKH
「7つの威力」がよくわかります。
「ウランのテーマ」
作詞:荒木とよひさ / 作曲・編曲:三枝成章 / 歌:ウランズ
わずか3回のウラン主役回(14話、30話、45話)のみで流された楽曲。三枝さんのセンスが光る、すごくいい曲です。ぜひ聴いてみてください。
裏番組が「Dr.スランプ」
放送期間は1年3ヶ月、全52話。ジャイアンツのナイター中継の兼ね合いで約3ヶ月延びました。
その間、裏番組に1981年4月からフジテレビ系で「Dr.スランプ アラレちゃん」が始まりました。さらに同年10月からは、その後の19時30分に「うる星やつら」がスタート。
この2作品がもう少し早く始まっていたら、本作は視聴率的に大打撃を受けていたことでしょう。
最終回
最終回では、手塚先生ご本人が登場する実写映像が冒頭に流されました。
この映像は手塚先生のご希望で、息子の手塚眞さんが撮影。ただしエンディングでは「撮影 玉手久也」とクレジットされ、眞さんは「演出」となっています。
鉄人28号(1980)
「鉄人28号」
1980(昭和55)年10月3日 ~ 1981(昭和56)年9月25日 51話
日本テレビ系 金曜18:00 ~ 18:30
日本テレビ・東京ムービー新社
いまでは「太陽の使者 鉄人28号」と呼ばれる本作。しかし本放映時タイトルは、シンプルに「鉄人28号」でした。後年、映像ソフト化の際に旧作と区別するため、主題歌のタイトルにちなんで「太陽の使者 鉄人28号」に改題されたのだそうです。
横山光輝原作の「鉄人28号」は1960(昭和35)年に実写TVドラマがあり、1963(昭和38)年にTVアニメ第1作が放送。本作は、TVアニメ2作目となります。
原作を大胆にアレンジ。舞台を近未来とし、キャラクターやメカのデザインも、現代的なシャープなものとなっています。
放送帯は日本テレビ金曜18時。「ムーの白鯨」の後番組で、本作の次が「六神合体ゴッドマーズ」でした。
徹底した勧善懲悪の、正統派ロボットアニメ。ありそうで意外と少ない、主人公ロボットの魅力をストレートに伝える作品として、マニア層に根強い人気を誇ります。
横山光輝先生の反応
「鉄腕アトム」のリメイクに執着した手塚先生とは異なり、本作の原作者、横山光輝先生は「鉄人28号」のリメイクには当初、乗り気ではなかったそう。
しかし、伝説のバンダイ工業デザイナー村上克司氏のアレンジした鉄人のデザインにベタ惚れ。その場でリメイクOKとなった、と言われています。
横山先生は生前、このデザインを「一番かっこいい」と語り、お気に入りだったそうです。
ブラックオックス
本作を語る上で外せないのが、鉄人のライバルロボ、ブラックオックスです。
洗練されたデザインで人気も高く、直線的デザインで心を持たない鉄人と、曲線的デザインで自らの意志を持つブラックオックスという対比に加えて、悲劇的な生い立ちを持ち、物語中で時に鉄人と共闘するなど、単なる悪役にとどまらない人気を誇りました。
本作でのブラックオックスの最期は、ロボットアニメ史に残る名場面と言われています。
私個人的には、原作に近いこのくらいのデザインの方が、味があって好きです。。。
メカデザインと作画スタッフ
制作は「ムーの白鯨」と同じ東京ムービー新社。チーフ・ディレクターも引き続き、今沢哲男氏。メインライターは「マジンガーZ」にも参加し、後番組の「六神合体ゴッドマーズ」も手がける藤川桂介氏。
作画監督は鈴木欽一郎氏、メカニック・デザイナーは前田実氏(スタジオジュニオ)。実質的なメカニック作画監督はスタジオZ5で、本橋秀之と亀垣一が中心となり、鍋島修、金田伊功などが参加。
スタジオZ5、スタジオNo.1、テレコムアニメーションフィルム、アニメアール、ランダムなど、それぞれの個性を活かした作画の違いが楽しめる作品として、語り継がれています。
主題歌
本作の主題歌およびサウンドトラックの歌と演奏、編曲者として表記される「ギミック」の実体は、清水靖晃、笹路正徳、土方隆行などを擁し多才な音楽技能集団として80年代に活躍した「マライア」と、彼らの所属する音楽プロダクション「ビーイング」所属アーティスト、作家によって編成された、豪華なメンツでした。
OP 「太陽の使者・鉄人28号」
作詞:藤川桂介/作曲:清水靖晃/歌:ギミック
ED1「希望にむかって~正太郎のテーマ~」
作詞:藤川桂介/作曲:清水靖晃/歌:ギミック
ED2「無敵の鉄人28号」
作詞:亜蘭知子/作曲:河内淳一/歌:ギミック
“スーパーロボット“としての鉄人
本作での鉄人28号は、「太陽エネルギー変換システム」によって事実上無限にあるクリーンエネルギー「太陽エネルギー」で稼働。「独立連動システム」によって腕や足、さらには頭部を破壊されても性能を落とさずに戦い続けることができます。
かつて「リモコン」だった操縦機は「ビジョンコントローラー(Vブイコン)」に。「来たるべき新時代に対応するための」スーパーロボットとして描かれます。
しかしながら、ロボとしての機能はほぼオリジナルと同じ。派手な武器アイテムなどは一切なく、ハンマーパンチやフライングキックという名の飛び蹴りを駆使して、あくまでも「肉弾戦」で戦うところが、鉄人の魅力でした。
超合金も人気
鉄人28号は当時のおもちゃの定番・ポピーの「超合金」との相性もよく、通常版やDXなど、いくつかのモデルが発売されました。
その質感溢れる造形で、大人気となりました。
「ショタコン」の起源
実は本作が美少年フェチを指す「ショタコン」のルーツ、と言われています。
当時、原作から大きく美少年にリファインされた1980版正太郎少年が女性ファンに大人気。「ショウタローコンプレックス」転じて「ショタコン」が、一般に広まったとされています。
おわりに
私は当時10歳。新聞欄に「鉄腕アトム」「鉄人28号」とあるのを見て、「いま昭和何年だよ」とツッコミを入れてました。
なにせこの時期、1974(昭和49)年の「宇宙戦艦ヤマト」を経て1979(昭和54)年の「機動戦士ガンダム」人気が沸騰。それまでの「TVマンガ」は「アニメ」「アニメーション」となり、新たな”若者向けカルチャー”として、注目されはじめていました。
そこへ来ての、レトロ作品のリメイク…
とはいえ、私の世代(1970年生まれ)は「アトム」も「鉄人」もモノクロだったため再放送もなく、「よく知ってるけど、実は見たことがない」作品。それだけに、新鮮な気分で楽しみでした。
そして実際、2作品共に面白く、毎週楽しみに見ていた記憶があります。
アトムはなんといってもアトムやウランといったキャラクターのかわいさ、愛くるしさ。
鉄人はロボットアニメとしての王道、正統派のカッコよさ。
長く愛される作品には、時代を超えた普遍的な魅力があるんだな、と感じました。
さらに…同じ10月に「あしたのジョー2」までスタート。こちらは前作の「正統な続編」であり、監督の出崎統氏の演出が冴えまくる名作でした。
そしてこれら3作は、いずれも前回はフジテレビ系、今回は日本テレビ系。
アニメ進出が後発だった日本テレビが一気に人気タイトルを自局コンテンツとして取り込み、“反撃“を開始したのが、この1980(昭和55)年だったことになります。
コメント
ヤッターマンもフジテレビ→日本テレビでリメイクされた際に主題歌はアレンジはされているものの同じ曲が使用されてましたよ♪意外とこういう例はあるかも(しかも日本テレビ版の最終回では旧作の主題歌を歌っていた山本正之さんがカムバックして歌ったり🙂)