今回は、1973(昭和48)年に放送された日本初の西部劇TVアニメ、「荒野の少年イサム」をご紹介します。
同時期の東京ムービー作品「ど根性ガエル」「空手バカ一代」「侍ジャイアンツ」「エースをねらえ!」などと比べると極端に知名度が低く、露出も少ない本作品。知ってる方はどのくらいいるでしょう。
「荒野の少年イサム」
1973年4月4日 – 1974年3月27日
毎週水曜 19:00-19:30
制作 フジテレビ 東京ムービー
アニメ制作 Aプロダクション
全52話
私は放送当時3〜4歳で、その後の再放送もなかったので記憶が曖昧…なのですが、「大きなカメのぬいぐるみに跨りテンガロンハットでライフルを構えている、いまでいうコスプレ写真」が残っていまして…かなりハマって観ていたようなのです(ちなみにもう1枚は「木枯らし紋次郎」のスタイル)。
「少年ジャンプ」連載
1971年から1974年にかけて「週刊少年ジャンプ」に連載された川崎のぼる氏 漫画作品のアニメ化です。さらに原作があり「少年ケニヤ」で有名な絵物語作家 山川惣治氏の「荒野の少年」(1952年)。これを川崎のぼる氏が劇画調にアレンジしたのが「イサム」でした。
川崎のぼる氏は「巨人の星」「てんとう虫の歌」「いなかっぺ大将」など、当時 超売れっ子作家。その骨太&肉厚な画力には、いまどきの漫画には感じられない圧倒的な迫力が漲っています。
神谷明さん初ジャンプ主人公作品
TVアニメ版では、劇場版「シティハンター」でいまなおご活躍のベテラン声優 神谷明さん。「キン肉マン」「北斗の拳」など数多くのジャンプ作品の主人公を演じた神谷氏の、“ジャンプ主人公デビュー作“が、この「イサム」なのです。
フジテレビ 水曜19時枠
本作はフジテレビの水曜夜19時からの30分枠。「イサム」の前番組は「赤胴鈴之助」で、後番組は「小さなバイキング ビッケ」でした。剣道(日本)から西部劇(アメリカ)ときてバイキング(北欧)…なかなかのチャレンジング枠、バラエティ豊かですね(笑)
高畑勲&宮崎駿コンビも参加
アニメ制作としてクレジットされている「Aプロダクション」とは、後の「シンエイ動画」となる前身の会社(新A→シンエイになったのですね、初めて知りました)。
ちなみに、本作には「アルプスの少女ハイジ」に取りかかる直前の高畑勲さん&宮崎駿さんコンビも参加しています。タイミングとしては「ルパン三世(TV第1シリーズ)」「パンダコパンダ」「パンダコパンダ 雨ふりサーカスの巻」の直後くらいの時期でしょうか。
ハードなストーリー
主人公のイサムは日本人の父親とインディアン(ネイティブ アメリカン)の母親との間に生まれたハーフ。幼くして父と生き別れ、母が亡くなり、 運良く善良な人々に拾われ、育てられ、無法者一家ウィンゲート親子にさらわれ、冷酷な殺し屋として 銃の教育を叩き込まれ…
という、なかなかのハードなストーリーです。青年に成長するマンガとは違い、アニメ版は少年キャラのまま、という違いがありました。
メディア化、再放送なし、マンガも封印?
本作はテーマがテーマだけに、今では「ネイティブ アメリカン」と言わないといけない「インディアン」が連発されますし、白人との対立に加え、黒人奴隷も描かれます。西部劇ですから銃撃戦も当然たくさん出てきます(というかそれがメインです)。
そのせいなのか?再放送もLD、DVDなどメディア化もされず、コミックスも長年、絶版でした。
しかしながら当然のごとく、本作は差別や殺戮を助長するものではまったくなく、むしろ逆です。白人と黒人奴隷の身分の壁を越えた和解エピソードや、白人がインディアンに対して理解と謝意を示すエピソードもあり…教科書なんかよりよほど学びになる作品なのです。昭和の少年マンガ、アニメは骨がありました。
そして2013年「週刊少年ジャンプ45周年」を記念して、コミック1~5巻が復刻発売。そして、YouTubeでは公式にアニメ版が視聴できます。
こうなると、「封印されていた」というよりも、単にマイナーなのでスルーされていただけなんじゃ…?という感じがしますね…
私も今回、45年ぶりに観ました。いやぁ懐かしいというか何というか、不思議な感覚です。オープニングとエンディングの感じは観たら思い出しました。そうそう、これ、という。
お話の方は、初回からイサムの置かれた環境が過酷で…いまどきのTVアニメからしたら、考えられないハードボイルドですが、時おり仔犬とのふれあいとかもあり、緩急が見事です。でも、ある程度年齢が高い方が面白さが尚わかる名作ですね。
主題歌
op「荒野の少年イサム」
作詞:東京ムービー企画部 / 作曲 :渡辺岳夫
歌:ボーカル・ショップ
ed「オー・サンボーイ」
作詞:東京ムービー企画部 / 作曲 :北原じゅん
歌:チャーリー・チェイ
op作曲の渡辺岳夫さんは「巨人の星」「アタックNo.1」「天才バカボン」「キューティーハニー」「アルプスの少女ハイジ」などで知られる巨匠。どこからどう聴いても「西部劇」で見事です。「兄弟仁義」「骨まで愛して」の北原じゅんさんによるエンディングも名曲です。
しかしながら「タイガーレコード」という聞いたことのないマイナー レコード会社のため、原盤が消失してアナログ音源しかないのだとか…ぐぬぬ。
これ読んで興味を持った方は是非、マンガとアニメを観てみてください。
コメント