1982年秋、南極の863人を残して人類は滅亡するー
何十年ぶりに、新型コロナ感染で再び注目される映画「復活の日」を、Amazonプライムで観ました。
英語タイトルはそのまんま“Virus“。
この作品を1964(昭和39)年に書き下ろした小松左京氏の着想力と、40年も前に法外なスケールで映画化した角川春樹氏の情熱に驚きます。
©️1980 KADOKAWA・東京放送
●映画「復活の日」とは?
公開は1980(昭和55)年。角川春樹事務所とTBSの共同製作、配給は東宝です。
小松左京さん原作の映画といえば「日本沈没」(1973 昭和48年)が有名ですが、この「復活の日」の原作は1964(昭和39)年。映画化の企画も含め、こちらの方が先で、この作品で地震について調べたことが後の「日本沈没」につながったのだとか。
さて「復活の日」、当初は東宝で映像化が企画されますが、そのあまりに壮大なスケールのため断念。
そこに名乗りをあげたのが、メディア界の風雲児、角川春樹氏でした。
早川書房から刊行されていた本書を1975(昭和50)年に角川文庫で復刊。そして、角川書店映画進出の第1作として企画を開始します。
角川氏は原作者の小松氏に「これを映画化するために会社を継いだ」と語り、後に「映画製作を行うようになったのは『復活の日』がきっかけ」「この作品を作ることができれば、映画作りを辞めてもいいと。それくらいの想いがありました」と述べています。
角川氏は当初、海外のパニック映画の巨匠達に監督を打診するも色よい返事がもらえず、周囲の反対を押し切り深作欣二監督と脚本 高田宏治氏という“東映ヤクザ映画コンビ“に制作を託します。極限状態の人間の描き方に期待したのかもしれないですね。
撮影は東宝専属の木村大作氏。木村氏は、南極での撮影を条件に引き受けたと言います。
1974(昭和49)年、深作監督の下、日活・東宝・東映から集まった日本人スタッフに、カナダチームを加えた制作陣が揃い、制作がスタートしました。
アメリカ大陸縦断、35mmフィルムでは当時世界初となる南極、さらには東側諸国からマチュピチュでも撮影を敢行し、総製作費は25億円とも32億円ともいわれます。
●あらすじ(ネタバレあり)
舞台は1982(昭和57)年。雪解けに向かいつつある米ソ冷戦下、MM-88というアメリカの殺人ウィルス兵器がスパイによって東側の手に渡り、米軍が極秘で奪還を試みますが失敗。
そしてそのウィルスが、飛行機事故で遂に地球上に解き放たれます。
「イタリア風邪」と命名された謎の感染症は世界中で猛威をふるい、各国主要都市を次々に壊滅させていきます。
主人公は南極昭和基地で地震研究を行なっている吉住(草刈正雄)。ワシントンD.C.のホワイトハウス、南極の世界各国の基地、そして必死に病気と戦う日本国内、世界主要都市などを舞台に、同時進行で物語が描かれます。
若き日の草刈正雄さんは英語も堪能で、巨漢揃いの外国人キャストに混ざっても見劣りせずカッコいい。
昭和基地のメンツは千葉真一さん、夏八木勲さん、渡瀬恒彦さん、森田健作さん(現千葉県知事)、永島敏行さんと濃過ぎる面々。
日本国内も緒方拳さん、丘みつ子さん、多岐川裕美さんなど豪華キャストです。
結局、南極基地の853名を残して地球上の人類は全滅。そしてこの南極にも危機が訪れます。
それは吉住が見つけた、ワシントンD.C.近郊で発生する巨大地震。それが引き金になり自動報復装置が作動してICBM弾が発射されると、さらにソ連の報復ミサイルも作動して地球上に核の雨が降り注ぐ。そしてそのターゲットには南極のアメリカ基地も含まれている、というものです。
これを止めるべく仲間と完成したてのワクチンを投与しワシントンのホワイトハウスへ向かう吉住ですが間一髪、間に合わず。
1人アメリカに取り残された吉住は、徒歩でアメリカ大陸を縦断して、わずかに生き残った女性達と再会する、という物語です。
●評価
1980(昭和50)年の邦画興行成績では黒澤明監督の「影武者」に次ぐ24億円の大ヒット。キネマ旬報ベストテン 読者ベストテン 3位になりました。
しかし、巨額な制作費に宣伝費を加えると赤字だったと言われます。さらに、アメリカ人スタッフによる海外版のセールスも奮わず、角川春樹氏は「配収は自分が予想したよりも全然少なかった。それに海外マーケットが成立しませんでした」と語っています。
この作品を契機に角川映画は大作志向からアイドル路線のプログラムピクチャー路線に舵を切り、そこから薬師丸ひろ子、原田知世らのスターが誕生しました。
「自分の夢は一旦成立し、これで勝負は終わったんだと。ここから先は、利益を上げる映画作りへシフトしようと考え方を変えたんです」
「日本沈没」「エスパイ」など映画化作品のある原作者の小松左京氏は本作を気に入り「自作の映画化作品の中で一番好き」と語っています。
小松氏は初版のあとがきにこう記しています。
「核ミサイルの時代になって、『惑星的な危機』が現実の問題になった時、われわれはもう一度世界と人間とその歴史に関する一切の問題を『地球という一惑星』の規模で考えなおす必要にせまられていると思う。このために、文学もまた、自己の専門領域にとじこもってばかりおらず、なりふりかまわず他の一切の領域について、自分なりの考察をひろげる必要がある」
感想
殺人兵器として造られたウィルスもそうですが、核ミサイルの報復の連鎖と、いずれも米ソ冷戦を痛烈に批判する途方もないスケールのデカいお話を、日本、アメリカ、ドイツ、イタリア、ソ連、カザフ共和国、南米、南極、北極と世界中でロケしまくり、潜水艦までチャーターし外国人キャストを使いまくり、妥協なく映画化した熱意には、狂気すら感じます。
マスクをした患者が病院に殺到、「肺炎」と診断され大混乱で医療崩壊。死屍累々のゴーストタウンと化した東京の様子を、ドローンのような遠隔操作が映し出すという描写は、予言のようです。
ラストシーン、延々と放射能で荒廃した南北アメリカ大陸を徒歩で縦断する主人公がマチュピチュを歩く俯瞰のシーンには、驚きを通り越して笑いすら浮かびます(それ以前もツッコミどころ満載の悶絶シーン連発ですが)。
本作の制作費は邦画史上第8位。中でも本作の制作年はもっとも古いのです。
これぞ、メディア界の風雲児、角川春樹氏にしかできない仕事でしょう。
【公開】1980年(日本映画)
【原作】小松左京
【脚本】高田宏治、グレゴリー・ナップ、深作欣二
【監督】深作欣二
【撮影】木村大作
【音楽】羽田健太郎
【キャスト】草刈正雄、オリヴィア ハッセー、ボー スヴェンソン、多岐川裕美、渡瀬恒彦、ジョージ ケネディ、グレン フォード、ロバート ヴォーン、チャック コナーズ、エドワード J オルモス、ヘンリー シルヴァ、永島敏行、森田健作、丘みつ子、中原早苗、緒形拳、夏八木勲、千葉真一
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角川映画とは何か?①~1976「犬神家の一族」~1981「ねらわれた学園」
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