「ノストラダムスの大予言」で知られる作家の五島勉さんが2020年6月にお亡くなりになりました。今回は1970年代、大人から子供まで巻き込んだ「1999年7月人類滅亡」「大予言」ブームについて封印された映画作品と共に振り返ります。
本作も前回ご紹介した「日本沈没」と同様、ベストセラー→東宝で映画化、というルートをたどっているのです。
●1974(昭和49)年のベストセラーに
同書が刊行されたのは1973(昭和48)年11月。五島勉氏は1929(昭和4)年生まれの当時44歳ですからかなり遅咲きです。大学卒業後、女性週刊誌のアンカーマンを経て小説家に転身しますがなかなかヒットに恵まれませんでした。本作の企画当初は「10人の預言者を紹介」的な企画だったそうですが出版社(祥伝社)編集者のアドバイスで「ノストラダムス1本に絞る」ことで大ブレイクにつながりました。
後藤氏は16世紀のフランスの占星術師、ノストラダムスの予言集から「1999年7の月に人類滅亡の日が訪れる」と解釈。これが話題に話題を呼び、発売わずか3ヵ月で発行部数100万部超え。1974(昭和49)年の年間ベストセラー2位にランクインする爆発的大ヒットとなりました(1位はリチャードバック著「かもめのジョナサン」)。
以降、後藤氏が手がけたシリーズは1998年までに10冊刊行され、当時は数えきれないほどの「予言」類似本、関連本が飛ぶように売れました。
●時代背景
当時、日本はオカルトブームや終末ブームに沸いていました。
1973年秋に第4次中東戦争による「第一次オイルショック」が起きます。節電のためにテレビが深夜放送を休止し、プロ野球の試合も開始時間を早めて開催。百貨店のエレベーターもエスカレーターも止められ、インフレによる狂乱物価が市民生活を直撃します。
そもそも当時は米ソの冷戦の時代。核戦争の不安は今よりも濃いものがありましたし、ベトナムからは悲惨な戦争の実態が報道され続けていました。
国内では60年代から進行していた工場の排水・廃液、大気汚染などの公害問題が深刻化(1967年に4大公害病を受け公害対策基本法が施行)。都市では「光化学スモッグ警報」で子どもが外で遊べないことも日常茶飯事でした。
これまでの戦後の高度成長が一転、明るいと思われていた日本の未来に不安を感じる世論が一気に高まったこの時期。小松左京氏の「日本沈没」と後藤勉氏の「ノストラダムスの大予言」の2冊が、戦後イケイケで上り続けていた日本人の内心にある「こんな好景気がいつまで続くのか」「経済優先で環境を破壊しまくっていたらいつかしっぺ返しを喰らうのでは」といった”漠然とした不安”とマッチして、大ヒットしたのです。
大げさではなく当時、どの友達の家に行っても(親の)本棚にこの2冊があり、「1999年に人類は滅びるらしいぞ」という噂は小学生でも誰でも知ってるどころか、本気で心配してノイローゼ気味なヤツまでいたものです。
●「ノストラダムスの大予言」とは?
ノストラダムスはルネサンス期フランスの医師、占星術師、詩人。
後藤勉氏は彼の著した「予言集」(初版1555年)について、彼の伝記や逸話を交えて解釈する、という体裁でこの本をまとめています。中でも「一九九九の年、七の月 空から恐怖の大王が降ってくる」という予言詩は日本人なら誰でも知ってるレベル。世界的にみるとそんな国は日本だけなのだとか。
後藤氏は同書中で「ノストラダムスがアンリ2世に対して1999年に人類が滅びると語った」とする史料などを引き合いに出し、人類滅亡を予言したものである、と解釈します。そして環境問題、核兵器、彗星など「恐怖の大王とは何か?」の検証を行います。
その前後には関連する詩の解釈を行い、1999年までに襲い来る「超汚染」(大気や水質の汚染)、大震災による陰惨な未来像を畳み掛けるように展開。さらに、1999年以降に生き残った僅かな人類を待ち受ける悲惨な運命についても言及していました。
後藤氏が晩年、弁明の際に必ず言うように最後の章では人類滅亡は先延ばしにできるかもしれない、局所的な破壊にとどまり人類が絶滅はしないといった「希望的な可能性」についても言及しているのですが、同書を読んだ人々はその前の「滅亡」のインパクトに圧倒され、その部分だけがセンセーショナルに大きくクローズアップされていきました(そうやって売ったのですけどね)。
後年、ノストラダムスの詩の解釈はもちろん滅亡説の根拠として挙げていた史料や他の研究者の著書からの引用も含め、いずれも五島氏の創作に過ぎず、「ノストラダムスの予言解釈本というより五島勉の小説ではないか」との批判を浴びますが、当時はそんな冷静な論調は鳴りを潜め、”1億総ヒステリー状態”といった大ブームとなりました。
●映画「ノストラダムスの大予言」
「ノストラダムスの大予言-Catastrophe 1999」
監督:舛田利雄
特技監督:中野昭慶
脚本:八住利雄
製作:田中友幸/田中収
音楽:冨田勲
ナレーション:中江真司(冒頭)/岸田今日子
出演:丹波哲郎/黒沢年男/由美かおる/司葉子/山村聡 ほか
これだけのベストセラーを映画界が放っておくわけがありません。さっそく、前年に大ヒットした「日本沈没」に続く特撮パニック大作として東宝(というか田中友幸プロデューサー)が名乗りを上げます。
監督は日活黄金時代を支えたヒットメーカー舛田利雄さん。1970(昭和45)年には日米合作の戦争大作「トラ・トラ・トラ!」、そしてこの前年にはあの「人間革命」も監督しています。脚本は昭和20年代にヒット作を多く手掛けた重鎮の八住利雄さん。音楽は「世界の」冨田勲さんが荘厳で陰鬱なサウンドを手がけています。「爆破の中野」こと特技監督の中野昭慶さんは、本作でもドッカンドッカン爆破しまくっています(笑)。
そして主演。環境学者である西山良玄を演じたのは「日本沈没」「人間革命」でも主演の丹波哲郎さん。3作共にこの方の存在感なくては成立せず、の熱演ブリなのですが、丹波さんがこの後、どっち方面に向かっていくのかを知っている我々からすると、この時期の濃すぎる主演作品群には趣を感じますね(笑)。
公開は1974(昭和49)年8月。なんと併映は「ルパン三世 念力珍作戦」。ただしアニメではなく目黒祐樹さん演じる実写版です。
驚くべきことに「文部省推薦映画」でもあった映画「ノストラダムスの大予言」は1974年の邦画興行収入第2位となる大ヒットを記録しますが、いまは一切観ることができません。
公開のさ中に「修正騒ぎ」があった以降再公開もなく、過去1度だけTV放映はあったもののビデオ/LD時代を含めてまったくソフト化されておらず、いまや海外からの逆輸入盤や海賊版でしか観ることができない「封印作品」となっているのです。
問題となったのは以下の描写とされます。
1.成層圏に堆積していた放射能がニューギニアに集中的に降り注ぎ、それを浴びた原住民が凶暴化。国連の現地調査団に「食人鬼」と化して襲いかかる。
2.文明崩壊後、放射能の影響で奇形化したミュータント人間が登場する。
特に2についてはかの有名な「ウルトラセブン12話」と同様、人権団体、反核団体などの抗議を受け、公開のさ中に当該シーンがカットされる事態に。そしてその後は「臭いものには蓋」で「なかったこと」にされているのです。
本作は邦画斜陽期のカルト映画、怪しさ満点のトンデモ映画と思われていますが、実態はなかなかどうして考証に基づいた「環境映画」だったとも言われます。
当時は温暖化よりも寒冷化が注目されていたなども興味深いんですよね。考えてみれば、「ノストラダムス」の名前を使わなければ大衆が夏休みに環境汚染を考える映画を観に劇場に殺到するなんてことはあり得ないワケで、だからこそ「文部省推薦映画」だったのですが、テーマがテーマだけに今では「なかったこと」にされているのです。
●後世への影響
ベストセラー「ノストラダムスの大予言」は、1970年代以降の日本の新興宗教に影響を与えたという指摘があります。中でも1995(平成7)年にオウム真理教が引き起こした「地下鉄サリン事件」の遠因になった、と批判を浴びました。
コメント
サイトヘッド様には、猛残暑の中よろしくお願いいたします。
*「本=初めから誰も信じなかった週刊誌ネタ駄本 映画=何を勘違いしたのかお役所推薦?」
この「五島大便だか検便だかが書いたノストラ本」は自分も当時買いました。高1の時でしたが当時、自分も含めて周囲は誰もまともに本気にはしていませんでした。小学校からオカルトに興味関心を持ち、少ない小遣い銭やりくりしたり本屋の立ち読みで情報収集して来た自分ですが、得てして当時こういった「怪しい本を出している会社は多数あり、今日ほとんど潰れて」います。ノストラダムスの名前はぼんやりとは知っていましたが、やはり「占い師 占星術師程度の認識」しか無かった。五島著書のノストラ本でおそらく大半の人たちは「1999年の終末予言」を知ったらしいのですが、自分はかなり以前からぼんやりとですが知ってはいました。しかし何せ「名前の在る偉い学者先生が執筆した書籍では無かったし、場末の一ライターの書いた(執筆とは到底言えない)本」ですからレベルと重さが当初から違っていました。世間では何かパニックになったのならんのと言われましたが、少なくても自分の周囲では全く全然無く相手にもされなかったと記憶しています。それよりもその後すぐ「作家の高木彬光さん」による反論本「ノストラダムス大予言の秘密 1999年に地球は滅ぶのか?」が出てこちらの方がずっと面白かった。現在「高木彬光さんの著書が何所を探しても見つからず証拠保全が無いのが辛い」のですが、高木彬光さんの結論は「五島便は週末予言の4行詩の直訳で、ある種意図的に受動態を能動態に置き換えて意図的に異なる結論を導き出した?」と記憶しています。当時高木さんは原詩の英語訳のロバーツ版とフランス語訳の原詩を入手し、出来る限りベストの翻訳をしたがどうしても五島便と同じ訳にはならなかった」と。正直どちらも非常にうさんくさい内容で、話の面白さから言えば「高木の本が数倍面白かった」のです。
これは元々高木彬光さんが「占術の素人ではプロ並みの人であり、過去随分と助けられたらしい事実」と「国内外の多数の占術氏=特に霊感占い師の適当さといい加減さ、これがノストラダムスに極めて共通していた事」等が新鮮でした。更に「高島嘉右衛門や出口王仁三郎」等との比較も大変面白く勉強になりました。一つ驚くべき事は「昔の占術士たちは、占いにかこつけて時の政治を操っていた形跡がある」と言います。現実に「高島嘉右衛門等は、獄中で覚えた占術で数々の難儀を救われ、失敗した商売事業を建て直すために、占術で見抜いた僅か17歳のフーテン小僧(英語では天才的な才能を持っていたのを見抜いた)を何と年俸1000両で丸抱えし、仕事に差し支えない限りばくちも酒も女も黙認と言うとんでもない条件で雇い入れ、その後横浜舞台にパークス等に食い込み次々と良い仕事を請け負ったと。更に驚くのはこの「17歳のフーテン小僧の遊び仲間に、あの岩崎弥太郎が居た」と言う事実、、、此処まで高島嘉右衛門は見抜いていたらしいと。後年高島嘉右衛門は「伊藤博文との深い交流により、日本の政治の根底を操った?」とさえ言われています。これらの事をノストラダムスと対比させ、一つの結論として「早くフランスの王宮を追われたノストラダムス、少なくても五島便が言う様な、神か?悪魔か?クラスの大予言者ならば、何故最後までフランスの王はノストラダムスを自分の周辺に囲い置いておかなかったのか? やはりその程度の占い師ではなかったのか?」が高木彬光さんの結論であり、自分もそう思います。更に難儀なのは「ノストラ4行詩が難解の上に、どうとでも解釈出来る点と、更に後世の者達がその4行詩に合わせて事を起こした事さえあったらしい」事実、、、益々ノストラダムスってぇ怪しく思えるのです。
後に日本で作られた(創るとは到底書けない)恐るべき駄作映画=ノストラダムスの大予言」
実は自分はかなり以前からこれらのDVDを持っていて今回改めて観直してみましたが、
まずこのDVDの出所が全然解らず、場面構成は横長パナビジョンで更にTCRタイムカウンターが挿入され、どう見ても完全ノーカットのパイレーツらしいと。しかも当時「旧文部省の推薦」とはどういう事なのか、、、、劇中の台詞に「豆腐には身体に良くない何某がどうたらこうたら」と豆腐屋が怒り狂う様な台詞が在ったり、まぁこれでよくも検閲?が通ったなぁと。
良くも悪くも丹波哲郎の説教と末香臭い能書きだけが残る稀にみる変な映画でした。
これでこ今後まず絶対に正規DVD化やTV放映は出来ません。更によくよく見ると「過去映画のライブフィルム等が多数使われ=世界大戦争とか、、、」更にこの後このフィルムは「地震列島や1985年頃の久々復活ゴジラ」にも流用されています。封印作品と言うよりも「とても見せられないレベルの作品」に分類されるのではと考えられます。サイトヘッド様やご訪問の皆様はどうお感じになられますか? 敬具
>五島大便だか検便だかが書いたノストラ本
故人に対してこのような表現はいかがなものですか。
>「作家の高木彬光さん」による反論本「ノストラダムス大予言の秘密 1999年に地球は滅ぶのか?」が出てこちらの方がずっと面白かった
そうですか?私は高木氏の著書も持っていますが(古書店の店頭で100円で売られていました)全く面白くはありませんでした。ご自身の自慢話に終始する前半部分でお腹いっぱいでしたね。著書に対する感じ方は人それぞれなので、そこはどうでもいいですが。ともかく、80~90年代において圧倒的に売れていたのは五島氏の著書であるのは事実です。