今回は、吉川晃司さん主演映画 ”民川裕司3部作”の2作目、「ユー・ガッタ・チャンス」をご紹介します。
“ナベプロの最終兵器” 超大型新人・吉川晃司さんの売り出し方として、ナベプロのボス 渡辺晋社長は「劇場版映画3部作」という手法を選択しました。
「すかんぴんウォーク」(1984)
「ユー・ガッタ・チャンス」(1985)
「テイク・イット・イージー」(1986)
このシリーズは、主人公が民川裕司(吉川晃司)、共演者に重なる人もいますが、それぞれ独立したストーリーです。
前作「すかんぴんウォーク」は、挫折を繰り返すホロ苦い青春映画でした →詳しくはこちら が、この「ユー・ガッタ・チャンス」はトップスターになった主人公が悪者とマスコミ相手に逃避行する、アクションあり唄あり笑いありシリアスありの展開で、シンプルに楽しめる「娯楽作品」です。
●映画「ユー・ガッタ・チャンス」とは?
大森一樹監督は「すかんぴんウォーク」の時に「最初顔合わせしたときは田舎のイモ兄ちゃんだったのに、撮影が進むにつれてどんどんスターの顔になって驚いた」と語っていますが、本作での吉川晃司さんはさらにシャープになり、短期間でリアルに“スターのオーラ“を身に纏ってるところに驚きます。
超人気有名歌手になったものの、“籠の中の鳥“生活に疲れた主人公(民川裕司=吉川晃司)は、マネージャー(柴俊夫さん)に「危険だから接触するな」と止められているカリスマ映像監督(原田芳雄さん)に会いたい、と1日だけの休暇をもらいます。
道中、NY帰りの謎の美女(浅野ゆう子さん)と出逢い、
辺見マリさんが経営する横浜の秘密カジノの用心棒トリオ(佐藤蛾次郎さん、阿藤快さん、中本賢さん、そしてヤバい妹は松本明子さん!)と、スキャンダルを追及する芸能マスコミから執拗に追いかけられ…というストーリーです。(追いかけるマスコミの中には室井滋さんがいます)
●圧巻の身体能力、そして“疾走する姿“のカッコよさ
そして、その逃避行中に見せる、吉川晃司さんの“人並み外れた身体能力の高さ“が、本作の見どころです。
中でも神戸駅からコンサート会場までのノンストップ チェイス シーンは圧巻。
駅前のクルマをロンダート跳び
高さ5メートルはある橋からコンクリートの川底へのダイブ
マスコミの車列の上を駆け抜け
歩道橋から前方回転して走行中のトラック荷台へダイブ
スタントマンでしょ?と思いきや、吉川晃司さんは現場で「自分でやりたい」と泣いて抵抗。怪我したらどうするんだ!、との周囲の説得でスタントマンを起用したものの、飛ぶマネだけ、の約束を破り本番ではホントに自分で飛び降りたのだそう。
まさに主人公そのまんま、“芸能界の反逆児“吉川晃司さんの面目躍如ですね。
そしてこの間、吉川晃司さんはずっと全力疾走。「走る姿のカッコよさ」は昔から映画スターの条件とされ、ある人は「マックイーンの再来だ」とか「太陽にほえろのショーケンだ」とか。
役者としての吉川晃司さんは、今も昔も「セリフ」でなく、「立ち姿」と「所作」などの「存在感そのもの」、そしてこの「走る姿」がバツグンにカッコいいのです(それをわかってるスタッフがいたらしく、話題のドラマ「下町ロケット」でも唐突にオフィス内を疾走するシーンが描かれてました、部長なのに 笑)。
ちなみに、このチェイスシーンの中でペンキを塗ってるオジサンは、大森一樹監督ご自身です。
そして、この一連のチェイスシーンで流れるのは2nd.アルバム「LA VIE EN ROSE」に収録されている「グッドラックチャーム」という楽曲(作詞 安藤 秀樹/作曲 伊藤 銀次)。実はこの曲はライブでほとんど唄われたことのない数少ない楽曲で、なぜこのチョイスなのか・・・。確かに明るい8ビートの楽曲でテンポはいいのですが、わざわざ唄なしのインストにしてるのも含めて、謎なのです。
●前作との共通点
前作の相方、山田辰夫さんがここぞ、というところで同じ役どころで再登場。
そして前作では別役だった原田芳雄さんが、主人公が惹かれるアウトサイダーな不良映像監督を。
そして前作同様、またもや謹慎になり“挫折から立ち直るシーン“が、セリフなしのイメージカットになっている点も共通です。今回は予算があったのか、ここが唐突にグアムのウィンドサーフィン大会シーンになっていて、またまた宍戸錠さんが、謎の助っ人役で登場。セリフはたった一言「ユー・ガッタ・チャンス!」とタイトルコール。ここは前にも書きましたが、ナベプロ社長の渡辺晋さんのリクエストだそうす。
デビューから2作連続で“スキャンダルで謹慎させられる“、“芸能界やマスコミの汚れた部分に立ち向かう“(アイドル映画なのに)ところが、「芸能界の反逆児」吉川晃司さんらしいですね。
●今回も冴える丸山節と、マネージャー役 柴俊夫さんの名演
脚本はもちろん今回も、丸山昇一さん。
スターになったものの「普通の人と同じ空気を吸わないといい音楽は生まれない」と自由を求める民川裕司は、マネージャーに「レールは、外れてみなきゃいい景色は見えないよ」と言い放ちます。これがこの映画のメインテーマですね。
それを受けたマネージャー(柴俊夫さん)は「だけど今は、決められたレールをやみくもに走るしんどさを身体で感じなきゃいけない時期なんだよ。そりゃ、レールから外れるのはカンタンだぜ。だけど元のレールに戻るのは、そうラクじゃない」
マネージャーはコンサート直前になっても帰ってこない主人公を最後まで信じ、クビを覚悟で待ち続けます。
そして大暴れした挙句に無期限謹慎を食らう主人公に、「裕司、お前は光だ。俺たちは影だ。光がないところに影はないんだ」と言い、再起を待つ・・・この歳になってみると、マネージャー役の柴さんの名演がグッときます。
主人公が憧れる不良映像監督(原田芳雄さん)を指しての「あの人は、”夢に生きてる”んじゃなく、夢”で”生きてるんだよ」というのも、丸山さんらしい、深いセリフです。
●やりたい放題のオマージュ満載
大森一樹監督曰く、
「冒頭のシーンは「007」、「ウエストサイド物語」(1961)があり、最後に手を挙げるのはライザ ミネリ「キャバレー」(1972)。「冒険者たち」(1967)も入れてあって、自分で愉しんでた。
神戸へどうやって行こうって言ったのが、丸山さん。そこで石原裕次郎さんの「憎いあンちくしょう」(1962)のイメージが出てきた。
コンサートで唄いながら2人(原田芳雄と浅野ゆう子)を逃がすのは、ヒッチコックの「知りすぎていた男」(1956)。一度やってみたかったんですよ。
スタート時点では「エデンの東」(1955)にしよう、って言ってたけど、全然違う映画になってる(笑)」
とのこと。
岡田プロデューサーも
「自主映画出身の映画好きが、日活 、東宝、渡辺プロの大舞台で好き放題やったわけだ(笑)」
これを許した渡辺晋社長も、愉しんでいたのでしょうね。
●サントラが幻の名盤
前作「すかんびんウォーク」は巨匠、宮川泰さんが担当したにも関わらず、サントラ盤がリリースされていません。本作はサントラ盤がリリースされ、音楽は吉川晃司さんの本業、1st.2nd.アルバムのアレンジャーをつとめた大村雅朗さんが担当されています。→大村雅朗さんについてはコチラ!
残念ながら現在は廃盤のようですが、主題歌「You Gotta Chance 〜ダンスで夏を抱きしめて〜」(作詞 麻生圭子/作曲 NOBODY/編曲 大村雅朗)がひそかにシングル盤とは違うロングバージョンで、吉川さんがピアノを弾き語りする「Rainy Lane」(作詞 さがらよしあき、麻生圭子/作曲 佐藤健/ 編曲:大村雅朗)以外は、オール インストゥルメンタル。
大村雅朗さんワールド全開の名曲揃いで、中でも、6曲目の「Le Visage」は感動的な超名曲!
私はCD持ってますが、ハイレゾ音源で復刻して欲しいアルバムです(しないだろうな)。
おまけ:劇中のRainy Lane弾き語りシーン
●同時上映は「少女隊」!
本作の同時上映は、アイドルグループ 少女隊主演の「クララ白書 少女TYPHOON」でした。
この時点での吉川晃司さんは人気絶頂でしたし、アイドル映画同士で前回の「うる星やつら」より相性がよさそうな感じですが…
大森監督曰く
「金かけたわりに、もうからなかった。併映が足引っ張って、客が全然入らなかった。次作「テイク・イット・イージー」はダメかと思ったけど、「併映の「タッチ」で救われた(笑)」
のだそうです。いまも昔も、アニメおそるべしですね。
民川裕司3部作の最終「テイク・イット・イージー」と吉川晃司さんのアイドル〜ミュージシャン遍歴については、また稿を改めて、ご紹介します!
〈関連リンク〉
▪️「すかんぴんウォーク」-1984 ナベプロ最終兵器 吉川晃司デビュー映画
コメント
病室に飛び込んだときに驚くお医者さんだよ。確認要でw
実はすかんぴんよりこっちの方が好きかも知れない。一作目は現実色を纏うセミドキュメンタリー。スクリーンにみえる多くの記憶色は肌色。対してこちらはブルー。空気に混ざる青。疾走感でスタイリッシュにみせたかとおもうと、スリーアミーゴの現実味ないドタバタがあったりしてw でも一見纏まらないようなエピソードを音楽と編集、そして何より吉川晃司の存在で見事に魅せられる映画に仕上がっている。アクション映画の名作だと思います。
追伸
山辰さんのリキシャルームのシーンは何度観てもいいよね、絞まりと収まりが抜群だよね。あと、大森監督は、すかんぴんでも広島の回想シーンの病院で、お医者さんでカメオ出演されてますw
ひらつかさん、ありがとうございます!娯楽作品、アイドル映画、アクション作品として単純に面白いですよね。新人ながら吉川さんの存在感と躍動感が「細かいことはいいんだよ、映画なんだから!」という大森監督の手腕でさらに輝いて見えます。六甲の廃墟ホテルはここが使いたかったんだろうなぁ、と思います(笑)し、丸山昇一さんの書くホンは、余計なセリフが少なくカッコいいのに、そこかしこにユーモアがあってステキです。山辰さんとの辛みは短時間ですがホント、素晴らしい。大森監督のすかんぴんでのカメオ出演、見逃してました!再確認します(笑)