「仁義なき戦い」〜1973 日本映画最高傑作

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「好きな映画は?」と訊かれたら、邦画なら間違いなくコレです。

 

日本映画の華やかりし最期の時代、錚々たる顔ぶれの個性的で濃すぎる役者陣の、ド迫力のせめぎ合いがたまりません。

 

この作品を観るたびに「俳優個々人による全面対抗戦みたいだ」と感じます。

 

大物同士の意地とメンツの張り合いだけでなく、ほんの数秒しか出番のないチョイ役、チンピラ一人一人に至る全員が「コイツには負けられない、ええとこどりしたい、爪痕を残してやる」と鬼気迫る(一部ものすごくフザけた)演技が、オープニングからエンディングまで、怒涛のように続きます。

 

とにかく、画面からほとばしるエネルギーがハンパありません。

 

私が昭和の政治やドキュメント、そして猪木新日のプロレスが好きなのは、映像を見ただけで「なにやら只事ではないヤバい感じ」「とんでもないことが起こりそうな雰囲気」というエネルギーを感じるから、なのですが、この映画はまさにソレの集合体みたいな奇跡の作品、ドキュメントです。

 

描いているのは確かに「ヤクザの抗争」なのですが、終戦間もなくから経済成長期の、ニッポンの社会や風俗を、それも地べたから、弱者視点から描いた群像活劇、としても楽しめるのです。

 

「戦争」そのもののシーンはありませんが、日本にとって「敗戦」とはどういうものだったのか、そしてどのように「復興」を遂げて行ったのか広島という場所柄もあり、教科書には決して載らない事がたくさんわかります。

 


 

◆映画「仁義なき戦い」とは何か?

1973年から1974年にかけて公開された、東映ヤクザ映画。「実録」モノの先駆けと言われます。
終戦まもない動乱期の広島を舞台に、約20年間に渡る現実の抗争事件をモデルにしています。

第1作「仁義なき戦い」の大ヒットを受けてシリーズ化、第5作「仁義なき戦い 完結編」までが作られました。(その後も派生作品は沢山あります)

 


 

◆何が「画期的」だったのか

それまでの「義理と人情」の「美しき任侠の世界」を描いたヤクザ映画とは違い、この作品では卑怯な裏切りや共謀、無慈悲な暴力と殺戮、快楽とカネなど、まさに「剥き出しの」「仁義なき」ヤクザの日常が描かれます。

抗争事件は現実に起きたもので、関係当事者のヤクザさんたちもまだ多くが生存中にも関わらず、それを映画化したのです。どう考えてもムチャです。実際相当揉めたそうです。が、それがめちゃくちゃに作品にリアリティを与えました。

 

そして、深作欣二監督の斬新なカメラワーク、脚本家 笠原和夫氏の綿密な調査と活き活きとした広島弁の台詞廻し、いまや知らない人はいないあの有名なBGM・・・

 

この作品の人気と評価は高く、いたるところで賞賛の声を聞きますし、研究書籍も数多く、いまだに刊行され続けています。キネマ旬報が2009年に実施した<日本映画史上ベストテン>「オールタイム・ベスト映画遺産200 (日本映画編)」では歴代第5位に選ばれています。

そして、出演した多くの俳優さん達が(主人公でもないのに)「自分の代表作は仁義」と言っている、のも、この作品がいかに特別か、という現れだと思うのです。

 


 

◆豪華すぎるオールスターキャスト

 

まぁ出るわ出るわの濃すぎる面々。次々死んではまた、続編で違う役名で登場したり、同じ人物を別の俳優が演じたり、ややこしいのですが、面白いから細かいこたぁどうだっていいのです。

主演は菅原文太さん。この時期、カミソリのような痩身でキレ味がハンパありません。
「広島の喧嘩いうたら、トルかトラレるかの二つしかありゃあせんので!」

 

 

眉毛ナシ!「地獄のキューピー」と呼ばれアンナも夜泣きした梅宮辰夫さん

「前向いても崖や!後ろ向いても崖やで」

 

 

ホントにクスリ キメてないですか?と確認したくなる松方弘樹さん

「ここらの店、ササラモサラにしちゃれい」

 

 

2作目で主役を張り役者として覚醒した北大路欣也さん

「恰好つけにゃあ、ならんですけん」

 

 

日活から東映に殴り込み、流石、別格の存在感を見せつける小林旭さん

「広島極道は芋かもしれんが、旅の風下に立ったことは一遍もないんで!」

 

 

武闘派のキ●ガイ演技で絶賛された千葉真一さん

「センズリかいて、仁義で首くくっとれ言うんか」

 

 

とにかく渋すぎる、ツウ好みの成田三樹夫さん

「なんでこのワシを殺りにこんのんなら!」
 

 

存在感だけはあるけど女好きで何にも仕事しない山城新伍さん

「おめこ芸者、ワリャ黙っとれ!」

 

すべてコイツが悪い!でもどうにも憎めない絶妙な親分、金子信雄さん

「ええケツしとるのぉ」

 

ウソつき裏切り臆病者、どうしようもなく情けない田中邦衛さん。

「呉の槇原正吉は、ちったぁ知られた男でぇ」

 

卑怯でカネに汚い小悪党、加藤武さん。

「ワシの言うことにも一理あるじゃろが」

 

アキラのライバルも仁義に参戦、宍戸錠さん。

「牛のクソにも段々があるんで?オドレとワシが五寸かい」

 

そしてこれらの濃いメンツの中でケンカ実力No. 1と言われる渡瀬恒彦さん

「やれんのう、ワシらのやることいちいちケチつけられたんじゃよう」

彼ら主演級のスターが勢ぞろい。セリフも明言連発、顔芸もスゴい。ほかにもまだまだいるのですが、とても紹介しきれません。オープニングの名前の序列にも注目です。

 

当時、この「仁義」に出られなかった役者さんは、さぞかし悔しくて嫉妬してのたうち回っただろうな、と思います。

 


◆徹底した広島弁のリアリティ

見始めは辞書が必要かもしれません。字幕つけて欲しいレベルです。福岡出身の私ですら、広島のそれもヤクザさん達の専門用語は、これを観るまで知りませんでした。ただ、カオを見れば大体の意味はわかります。最初はなんとなく、雰囲気を楽しみましょう。慣れて来ると実に味のある、含蓄のある名言連発で、使いたくなる事請け合いです。


 

◆権謀術数が渦巻くストーリー&爆笑するやらかし方
登場人物がハンパなく多いため、真面目に深く知ろうとすると、実に複雑な人間関係と対立構造で、何度も見返すとどんどん面白くなる奥深さがあるのですが、要はそれぞれがメンツを保つためにゴリゴリやり合うお話です。
全員ヤクザさんなので、全員悪い人なのですが、「この人は筋が通ったいい男」「この人はズル賢い人」「この人は情けない人」というのが、画面に登場した瞬間に、すぐにわかります
そして、「想像以上にヒドイ人」「予想を上回る姑息な人」達が、ものすごくいい味を出して笑えます。ものすごくシリアスな、命のかかった場面なのに、爆笑するような事を言ったりやったりします。
もちろん、文太兄ぃを初めとする主役勢のカッコよさ、という魅力もありますが、それだけではない、この緩急の見事さと、大真面目なのに滑稽でたまらない、クズすぎたり情けなさすぎて見事すぎる人間の本質ぶり、というのが、この映画が長く人気のある、秘訣な気がしてなりません。
もうこんな「人間力」溢れた映画は、二度と作れないですね…。


シリーズ一覧

 
1.仁義なき戦い
(1973年)1時間39分
 監督:深作欣二
 原作:飯干晃一
 脚本:笠原和夫
 撮影:吉田貞次
 美術:鈴木孝俊
 音楽:津島利章
 出演:菅原文太 松方弘樹 金子信雄 梅宮辰夫 田中邦衛 川地民夫 名和宏
 
2.仁義なき戦い 広島死闘篇
(1973年)1時間40分
 監督:深作欣二
 原作:飯干晃一
 脚本:笠原和夫
 撮影:吉田貞次
 美術:吉村晟
 音楽:津島利章
 出演:菅原文太 北大路欣也 梶芽衣子 千葉真一 小池朝雄 名和宏 成田三樹夫
 
3.仁義なき戦い 代理戦争
(1973年)1時間43分
 監督:深作欣二
 原作:飯干晃一
 脚本:笠原和夫
 撮影:吉田貞次
 美術:雨森義允
 音楽:津島利章
 出演:菅原文太 小林旭 渡瀬恒彦 金子信雄 加藤武 成田三樹夫 山城新伍
 
4.仁義なき戦い 頂上作戦
(1974年)1時間41分
  監督:深作欣二
 原作:飯干晃一
 脚本:笠原和夫
 撮影:吉田貞次
 美術:井川徳道
 音楽:津島利章
 出演:菅原文太 小林旭 梅宮辰夫 黒沢年男 田中邦衛 金子信雄 加藤武 小池朝雄
 
5.仁義なき戦い 完結編
(1974年)1時間39分
 監督:深作欣二
 原作:飯干晃一
 脚本:高田宏治
 撮影:吉田貞次
 美術:鈴木孝俊
 音楽:津島利章
 出演:菅原文太 北大路欣也 松方弘樹 桜木健一 田中邦衛 伊吹吾郎 山城新伍

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