追悼・松本一起~1985「INNOCENT SKY」吉川晃司 /80年代名盤⑩

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INNOCENS SKY KOJI KIKKAWA 音楽
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作詞家の松本 一起(まつもと いっき)さんが、2022年11月4日にお亡くなりになりました。今回は追悼の意を込めて、久々に80年代名盤シリーズ、吉川晃司さんの3rdアルバム「INNOCENT SKY」を取り上げます。

 

INNOCENT SKY 吉川晃司

作詞家・松本一起さん

 

松本一起さんは1949年生まれ。慶應義塾大学文学部を卒業後、1982年に早見優のデビュー曲「急いで!初恋」の作詞を担当したのを皮切りに、作詞家としての活動をスタート。80年代歌謡曲、TV番組主題歌・挿入歌、映画、CMイメージソングなどを3,000曲以上手がけられています。

 

松本一起

 

代表作は

池田聡「モノクローム・ヴィーナス」
鈴木雅之「ガラス越しに消えた夏」
中森明菜「ジプシー・クイーン」「Fin」
水谷麻里「春が来た」「ポキチ・ペキチ・パキチ」

などなど。

 

アーティストとしてはオフコース、西城秀樹、矢沢永吉、沢田研二さんらの作詞も手がけておられます。またアニメ主題歌では「きまぐれオレンジ☆ロード」「エスパー魔美」などがあります。

 

中でも class「夏の日の1993」 が有名で、1999年に作詞家集団「if」を主宰。
近年は、エッセイ集や短編小説などの著書も数多く出版。

 

そして2022年11月4日、心不全のため東京都内の病院で73歳でお亡くなりになりました。

 

吉川晃司「INNOCENT SKY」

 

私が初めて作詞家・松本一起さんを認識したのは、今回取り上げる吉川晃司さんの3rdアルバム「INNOCENT SKY」でした。

 

松本さんはこのアルバムで印象的なタイトルチューン「INNOCENT SKY」をはじめ、メインの作詞家として5曲を作詞。松本さんはその後すぐに中森明菜さんに起用され、「売れっ子」になっていかれた気がしています。

 

松本さんご自身も
「最初はコピーライター中心にずっとやってまして、僕が作詞家専業でやろうって思ったのは、吉川晃司くんの詞をたくさん…。木崎賢治さんっていう、本当に有名なプロデューサーさんがいらっしゃいますけども、その人が前からあなた松本一起って面白そうじゃないか、会ってみたいということで、ある人の紹介でお会いしたんですね。そしたら意気投合して、で吉川君の今度の新しいアルバムでちょっと1回挑戦してみませんかって、是非是非っていうことで。」
と語られており、名プロデューサー木崎さんの”抜擢”だったことがわかります。

 

INNOCENT SKY 吉川晃司

1985年3月30日リリース(SMSレコード)
produced by 木崎賢治・小野山ジロウ
engineered by 内沼映二
レコーディング:SEDIC STUDIO

 

 

<収録曲>

1. 心の闇(ハローダークネス) 詞:安藤秀樹/曲:原田真二/編:後藤次利

2. Gimme One Good Night 作詞:吉川晃司/曲:大沢誉志幸/編:後藤次利

3. スリルなモナリザ 詞:松本一起/曲:佐藤健/編:後藤次利

4. サイレント シンデレラ 詞:松本一起/曲:伊藤銀次/編:後藤次利

5. 別の夢、別の夏 詞:安藤秀樹/曲:佐藤健/編:後藤次利

6. Lady Baby 詞:松本一起/曲・編:後藤次利

7. in a sentimental mood 詞:安藤秀樹/曲:大沢誉志幸/編:後藤次利

8. 雨上がりの非常階段 詞:松本一起/曲:NOBODY/編:後藤次利

9. INNOCENT SKY 詞:松本一起/曲:佐藤健/編:後藤次利

 

<サポートミュージシャン>

今 剛:guitar
CHAR:guitar
後藤次利:bass
山木秀夫:drums
富樫春生:keyboards
中村哲:keyboards
矢口博康:sax

NOBODY:chorus
大橋純子:chorus
佐藤健:chorus

松武秀樹:computer programming

 

リゾートからアーバンへ、ロック色を強めた転換期のアルバム

 

1984年に新世代のナベプロ・アイドルとしてデビューした吉川晃司。

 

「モニカ」「ラ ヴィアン ローズ」「You Gotta Chance」などのヒットシングルや、1stアルバム「パラシュートが落ちた夏」、2ndアルバム「LA VIEN ROSE」できらびやかで美しい旋律のリゾートロック的世界観を構築した大村雅朗サウンドから、本作からアレンジャーが後藤次利に交代。

 

ベース後藤次利&ドラムス山木秀夫コンビによる重厚なFUNK SOUNDによって、ニューウェーブ・ダンサブルな個性が強調され、アイドルからアーティストへの転換を計る第一歩的なアルバムとなりました。

 

その意図は「シングルカット曲が1曲もない」ことに現れていて、本作から意図的に「ミーハーな女子ファン」を突き放す戦略が垣間見えます。

 

このアレンジャーの変更は、吉川晃司さん本人のロック・脱アイドル嗜好を踏まえ、プロデューサー木崎賢治さんがミュージシャンとしての成長を意図したものでしょう。

 

当時、後藤次利さんは自身のレーベル「Fitzbeat」で山木秀夫さんとる実験的なサンプリング&デジタルサウンドを志向しており、その趣向が本作にも活かされています。

 

この路線は以前⑥でご紹介した次作「MODERN TIME」で最初のピークを迎えますが、その前作である「INNOCENT SKY」は、これまでの西海岸リゾート・良質なポップスロックの色を残しつつ、アーバンでスタイリッシュ、エッジの利いたニューヨーク・サウンドへ移行。その意味で、今に続く「ロックアーティスト・吉川晃司」の原点的作品と言えます。

 

ちなみにこの印象的なジャケットは、アートディレクターの児玉敦さんと吉川晃司さん本人の合作だそうです。

 

INNOCENT SKY KOJI KIKKAWA

 

豪華な作家陣と参加ミュージシャン

 

これまで通りプログラミングに松武秀樹さんが参加。サンプリングとシンセを多用したサウンドメイクは変わりませんが、ドラム音を極端に強調した音作りに、当時の流行が反映されています。

 

作家陣は原田真二、大沢誉志幸、伊藤銀二、佐藤健、NOBODYというおなじみのメンツで本人の初自作詞も初採用。中でも3曲を佐藤健が手がけていて、奥さんの大橋純子さんがコーラスで参加しています。

 

ミュージシャンも豪華で、ギターの今剛、ベース後藤次利、ドラムス山木秀夫にキーボードで富樫春生、中村哲、サックス矢口博康と、後々まで吉川晃司と長い付き合いになる凄腕プレイヤーが参加しています。中でもタイトルチューン「INNOCENT SKY」のリードギターでCharが参加したことは、当時話題になりました。

 

松本一起さんはダンサブルなFUNKロックの「スリルなモナリザ」、ミディアムテンポのAOR「サイレント シンデレラ」、YESの Lonery Heartオマージュの「Lady Baby」、メロディアスな名曲「雨上がりの非常階段」そして、彼のキャリアでも重要な意味合いを持つ「INNOCENT SKY」を担当。この曲は、PRICEのPurple Rainオマージュ。これからの進む道を模索する10代最後の吉川晃司の心象を、見事に投影しています。

 

もう一人の作詞家・安藤秀樹氏は、次作以降でメインの作詞家になりました。

 

レコーディングは六本木・セディックスタジオ

 

本作がレコーディングされたセディックスタジオは当時、流行の最先端スポット・六本木「WAVE」のビルにありました。

 

rppongi wave

 

このビルには1983年に開館した「シネ・ヴィヴァン六本木」があり、ゴダールやトリュフォー、ルイ・マルら”ヌーヴェル・バーグ”などのヨーロッパを中心とするアートシネマを上映。日本のミニシアター・ブームの火付け役的な役割を担っていました(1999年閉館)。

 

音楽プロデューサーの小林武史さんは、当時の”六本木”の空気を、

「私がスタジオミュージシャンとして活動を始めた時期、よくセディックスタジオに出入りしていました。よくスタジオを抜け出しては、WAVEでCDや本を買っていました。そうやって気分転換して、スタジオに戻って再びレコーディングして、最後はシネ・ヴィヴァンで1本映画を観て帰る。そんな流れが定番になっていました。ちなみにセディックスタジオの廊下では、小室哲哉さんとすれ違ったこともあります。80年代後半の話ですね。その頃の六本木と言えば、夜な夜な営業しているロックバーみたいなものも多かったですし、芸能プロダクションも六本木から飯倉町周辺にかけて、たくさん点在していました。」

と語っています。

 

こうした背景を含めて、本作はバブル前夜の、享楽的な80年代の空気が愉しめるアルバムです。

 

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