今回は、「新宿伊勢丹襲撃」事件の翌日、1973(昭和48)年11月7日付の東京スポーツ紙に掲載されたインタビューをご紹介します。 ①はコチラ!
●事件翌日の東スポ インタビュー
■弟、猪木啓介氏
「あっという間の出来事で驚きました。姉さんがタクシーを止めに行き、兄と私が荷物を持って出てきたら3人が、ちょうどタクシーから降りたんですよ。パッと目が合ったので、私は会釈したんですが兄はほっとけ、と言ってそっぽを向いたんです。そしてタクシーの方へ歩きかけた時、シンが何か訳のわからぬことをわめいて兄の背後から殴りかかったんですよ。兄は前へ倒れて歩道のガードレールに頭をぶつけて頭を切ったんです。バーッと血が出てシャツが真っ赤になった。兄も一発、殴り返し、シンの顔にパンチが当たったんですが、今度はルージョーとホワイトが兄に襲いかかって殴り、蹴飛ばし、兄は今度はバスストップの鉄柱にぶつけられ、さらに止まっているタクシーにぶつけられ、文字通りの袋叩きでした。わたしも空手二段なんですが、あんな凄い喧嘩は初めてで手が出ませんでした。誰かが110番してパトカーが駆けつけ、外人レスラーたちは逃げ出したんです。私は兄を一刻も早く手当てしなければと車に乗せて連れ帰ったんです。乱闘は時間にして5分ぐらいでした」
■妻 倍賞美津子さん
「もう怖くて怖くて…目の前であの人がやられていても、足がすくんでしまって動けないんです。誰かおまわりさんを呼んでくださいって言おうとしても舌がもつれ、こんな恐ろしい経験は初めてです。ちょっとだけレスラーと結婚したことを後悔しました。でも、大きなケガがなくて良かった。それに一般の方々にケガがなかった事が不幸中の幸いでした」
そして、本人。
■アントニオ猪木
-ズバリ聞くが、なぜこんなことになったのか?
「俺自身がなぜ?と聞きたい。久しぶりに試合がないので女房と待ち合わせて羽田まで人を出迎えに行き、その帰り道、買い物をしようと思って伊勢丹に行ったんだ。いろいろ買い物をして弟と一緒に荷物を持って出たら、連中がちょうどタクシーから降りるのが見えた。あいつらも買い物かと思って見ていたら、視線が合った。まあ、いつもリングで血みどろになって闘っている相手だし、ファンの前で笑顔は見せられない。俺はそっぽを向いたんだ。女房が先に行ってタクシーを止めたので、俺たちもそのタクシーの方に歩きかかったら突然、後ろから殴られた。奴は何かわめいていたが、こっちもカーッとなって、それから何がどうなったか、よく覚えていない。相手は何人で誰と誰が殴ってきたか、こっちも夢中だったよ。シャツはビリビリだし、靴はガタガタ。あんまりみっともいい姿ではなかったね。とにかく本当に原因がわからないんだ」
-相手のシンもケガをしているようだが
「一発ガチンといいのが入ったのを覚えている。しかし相手は3人だからね。しかも頭の中で襲われるとは夢にも思っていなかった。さすがの俺も参ったよ。まあ、3人いたんだから、あの3人が共犯であることは間違いないと思うよ。周囲に大勢の人がいたからね。関係のない人、一般の人にケガさせてはいけないと思って、俺は最初は手出しはしなかったんだ。だから、こんなひどくやられてしまった。一般の人を巻き込んではいけない、そればかり頭にあった。とにかく、お騒がせして申し訳ない。なんだかんだいったて、これは内輪の喧嘩、それを街頭でやってしまったのは醜態。本当にみなさんには、みっともないところを見せてしまってお詫びしたい」
-内輪の喧嘩というとシンとの間にリング外でも何かトラブルでもあったの?
「シンという奴は気が狂っているんですよ。ほんのちょっとしたことでカーッとなる。内輪の喧嘩ということはリングの延長ということですよ。シンは場所、相手の見境がないんだ。30日に名古屋でも観客に襲いかかって、止めに入った警官とやりあったり、リングにサーベルを持ち込んだりするので『汚いことをやるな』と注意したら2日の小松大会では、どこで手に入れたのか、手錠を持ち出してきた。試合は乱闘ばかり。3日の岐阜で『レスラーならレスリングをやれ』と外人係を通して厳重に申し入れさせた。それを遺恨に思っていたのかもしれないな」
-岐阜で本紙の記者に『もうシンの暴虐は黙っていられない。喧嘩ファイトでもなんでもやってやる。シンと近く一騎打ちをやる』とあなたは宣言しましたね。
「俺が喧嘩ファイトと言ったのは、あくまでもリングの上のことだ。しかし、その2日後にこんなことになるとは夢にも思わなかった」
-いままでにシンにそんな気配はあった?
「移動時に駅で会っても、なるべく顔を合わさないようにしていた。だが、たまに同じ車両に乗ると一番前に座った俺のことを、一番後ろに座らせたシンが睨んでいるのを背中に感じた。振り向くと蛇のような目でぞっとしたことがある。この野郎やるかって思うこともあったが、レスラーはやっぱりリングの上で勝負をつけるべき、闘うべき。他人に迷惑のかからぬところで決闘すべきですよ。それを人ごみの雑踏の中で襲いかかるなんて、まったくレスラーの風上にもおけませんよ」
-これでシンを急遽帰国させるということは?
「そんなことはしませんよ。奴らだって契約して来ているんですからね。それに冗談じゃない。このまま帰られてたまるもんですか。今日の決着は、はっきりとリング上でつけますよ。シンが望むなら金網デスマッチでも革ひもデスマッチでも何でもやりますよ」
-それだけのケガをしていたらシンを障害罪で告訴できるんじゃないの?
「レスラーにとって、これぐらいのケガはどうってことない。告訴なんて大げさなことはしません。あくまでもリングで決着をつけます。人ごみのなかで騒ぎを起こし一般の方々にご迷惑をかけたことは本当に申し訳なかったと思っています。重ねてお詫びします」
この事件はプロレスマスコミや関係者の間でも今だに「ホントかヤラセかわからない」と言われています。
タイガー ジェット シン本人は今でも
「ノー! 断じてヤラセではない! あのストリートファイトが本物だったからこそ、猪木と私の試合はヒートして、ファンを熱狂させたのだ」
と言い続けています。
次回、最終回。「やっぱりヤラセ?衝撃の新証言」をお送りします。
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