女優の木内みどりさんがお亡くなりになりました。
今回は、木内さんも出演された1996年放送のドラマ「イグアナの娘」を取り上げます。
「イグアナの娘」 1996(平成8)年4月15日 – 6月24日 テレビ朝日系「月曜ドラマ・イン」 全11話 (C)萩尾望都/テレビ朝日・MMJ
タイトルの異様さから「なんとなく聞いたことはあるけど、みたことない」人の多い、このドラマ。
イグアナて…(失笑)
どういう話なの?
テレ朝だし、所詮はアイドルドラマ?
と食わず嫌いの人も多いでしょう。
タイトルだけ聞くとホラーなのかコメディなのか、はたまたSFなのかさっぱり見当がつきませんよね。
私もキワモノとばかり思い込み、まったく観る気が起きませんでした。
が、何かの拍子に観てその面白さに衝撃。
ぶっ通しで観ただけでなく、何度も同じ話を繰り返し観るのが苦痛な私が珍しく何度もビデオを見返すほど、ハマってしまいました。
実は、親子の葛藤と愛情を描いた青春モノの傑作で、めちゃくちゃ感動するお話なのです。
全11話と短いので、ぜひ観てみてください。
以降、なるべくネタバレなしで紹介します。
●月曜ドラマ・イン
テレビ朝日 月曜20時台に放送されていたドラマシリーズ。
前作「南くんの恋人」(1994年1月〜、高橋由美子さん/武田真治さん主演)が高視聴率を記録し、若年層向けのドラマ枠として注目されました。
そのため、本作もスタート時にそれなりの取り上げられ方をした記憶があります。さっぱりどんな話か見当がつかず、観る気は起きませんでしたが…
●ネタバレなしのあらすじ
「自分の姿がイグアナに見える」少女がヒロインです。そしてそう見えるのは、母親と自分だけ。周囲からは可愛い少女にしか見えません。
母親は、その娘を愛したいのにイグアナにしか見えず、その存在を拒絶し、それ故にひっそりと生きさせなければ、と護ろうともします。
ヒロインも自分に辛くあたるもののその秘密を共有する(本当の自分を理解してくれる唯一の)母親を受け入れ「自分は幸せになんかなれない」と思い込んでいます。
この親子の葛藤を主軸として物語は進行します。
辛くあたる母親と優しい父親、虐げられるヒロインと寵愛を受ける妹、イケメンを巡り取り合いになるイジワルなライバルと味方してくれる親友、といった対立構造が見事で、時折りコメディタッチなシーンも描かれ、映像は全体的に夕暮れのような色調、寺嶋民哉さんによる劇伴音楽とエルトン ジョンの主題歌などが折り重なり、独特の世界観を創り上げています。
ところどころで「イグアナに見える娘」が特殊メイクで登場しますが、それが幻想なのか、娘を愛したいのに愛せない母親の葛藤のメタファーなのか、コンプレックスを抱くヒロインの心の傷なのか、最終回までわからない作りになっています。
そして母親に拒絶されるトラウマから臆病に生きる主人公は、母親以外の世界と触れることで徐々に変わり、成長する姿が健気です。
「アナタは幸せになんてなれない」と母親に呪縛をかけられ、それに従いつつも少しだけ自由を得、親友ができた矢先に起きる事件…この山場は涙なくしては観ることができません。
お笑いでもホラーでもSFでもファンタジーでもなく、親子の葛藤と成長を描く青春ドラマなのですが、ラストで明かされる「イグアナの謎」は、絵本のお伽話を読むような、不思議な作品です。
●出演者
主人公が菅野美穂さん。まだ女優デビューしたてで、本作がテレビドラマ初主演作品。知名度もほとんどありませんでした。
彼女と対立し、冷酷な母親を演じるのは川島なお美さん。私は女優としての彼女を本作と「失楽園」しか観たことがないですが、隠された背景を含め、この役どころはハマり役でした。
優しくて包容力のある父親役が、近年再ブレイク中の草刈正雄さん。この当時「天下の2枚目草刈さんがホームドラマの父親役かぁ」と違和感を覚えましたが、いまや祖父役ですからね…。このドラマはこの父親のキャラクターでかなり救われます。
妹役は榎本加奈子さん。イメージのまんま、生意気で快活、母親からも溺愛され、姉と対照的なキャラで好演しています。
幼なじみのイケメンが岡田義徳さん。優しくてカッコいいのですが、友達以上恋人未満でいい感じなのにライバルの猛アタックに揺れ動き、その優柔不断ブリに視聴者層のヒートを買う場面も。
このイケメンを巡りヒロインをいじめるのがいま何かと話題の小峯麗奈さん。難しいヒール役を、魅力的に演じました。
ヒロインに理解を示し、唯一心を開く親友役が佐藤仁美さん。いまのお姿からは想像できない(笑)初々しく、快活なイイヤツぶりに驚愕してください。
この親友の母親役が木内みどりさんです。本作でのこの方の出演シーンは、号泣必死です。必見。
皆さん演技力も見事で、アイドルドラマにありがちな学芸会チックなチープさはありません。
●主題歌
エルトンジョンの「YOUR SONG」。言わずと知れた名曲です。
私は今でもこの楽曲を聴くたびに、このドラマを思い出してしまいます。
● 原作
「ポーの一族」「11人いる!」などの名作で知られる少女マンガの巨匠、萩尾望都さんのマンガが原作です。
当時、私はあまりのドラマの傑作ぶりに慌ててこの作品が入った単行本を探し、期待して読みましたが…
短編でストーリーもキャラも、ドラマとはほど遠く…
ドラマスタッフはよくもまぁこの原典を見つけてこの短編からあそこまでのドラマを作ったものだ、と感心しました。
脚本は岡田恵和さん。「ビーチボーイズ」「ちゅらさん」「いま、会いにゆきます」などで知られるお方です。
●視聴率
平均視聴率11.5%と平凡ですが、初回視聴率が7.9%だったところから最終回では最高19.4%と約3倍、同時間帯最高を記録。
それだけストーリーが良質だったという証ですね。
●放送終了後の衝撃
主演の菅野美穂さんはこの後、「君の手がささやいている」に主演し、推しも押されぬ若手トップ女優になりました。
そして翌1997年8月22日、20歳の誕生日にヘアヌード写真集『NUDITY』を発売。世間に衝撃を与えたのでした。
いまだかつて、宮沢りえさんと並び、この衝撃の写真集を超えるインパクトはないですね…。
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