1970年代後半〜80年代初頭、「日本テレビ火曜夜9時枠」はハードボイルドタッチでコミカルという名作ドラマの宝庫でした。中でも私が好きなのは「大追跡」「俺たちは天使だ」「プロハンター」の3本です。
*「俺たちは天使だ」のみ日曜20時~枠
今回はそれらの原点である「大追跡」をご紹介します!
「大追跡(THE GREAT CHASE)」
1978(昭和53)年4月4日〜9月26日
毎週火曜日21:00 – 21:54
日本テレビ系列
全26話
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あらすじ
オープニングは横浜の街中を疾走する映像に被せて、「ルパン三世」でおなじみの大野雄二さんのドラマティックなテーマ曲、そして森山周一郎さんの渋いナレーションで始まります。
「悪がはびこる犯罪都市に集められた五人の刑事達、遊撃捜査班。それは確実に検挙率を上げなければ廃止される特殊セクションである。彼らの行くところに正義は無い、感傷は無い、栄光も無い。あるのはただ、孤立無援な悪との闘いである。」
ストーリーは上の通りです(笑)。
寄せ集めのはみ出し刑事の特殊部隊「遊撃捜査班」が、ヨコハマを舞台に派手な銃撃戦やカーチェイスを繰り広げる刑事モノ。
同枠の石原裕次郎&渡哲也コンビの「大都会」シリーズのつなぎ番組(大都会パート2と3の間)として制作されましたが、個性豊かでカッコ良すぎる出演者と、ハードアクションに加えてそれまでの刑事ドラマにはないコミカルなやり取りで最高視聴率20%と大人気を博し、後の松田優作「探偵物語」、そして「俺たちは天使だ」「プロハンター」からの「あぶない刑事」につながる作品となりました。
制作経緯
東宝の大スター加山雄三さんの持ち込み企画だったそうですが、プロデューサーの山口剛さんは別に藤竜也さん主演の番組を企画していました。しかし藤竜也さん主演ドラマは実績がなく営業サイドから懸念を示されたため、加山雄三さんを「太陽にほえろ」の石原裕次郎ボス的な立ち位置に据えて「実質的な主人公はアナタです」と藤竜也さんを口説いたのだとか。
当初は海外ドラマ風のシリアスかつオーソドックスなアクション刑事ドラマとしてスタートしますが、段々とキャスト、スタッフ双方によるアドリブやギャグがエスカレートして作風がコミカルに変わって行きます。
スタート当初はボスである加山雄三さんと無頼派の藤竜也さんらが演じる刑事たちはギスギスしていて緊張感がありますが、徐々に信頼関係が生まれて仲良くなるのが、ストーリー上だけでなく妙にリアルでした。
キャスト紹介
ストーリーはあくまで刑事モノ、ではありますが、当時の活きのよいシナリオライターさん達が、登場人物のキャラを活かして自由に競い合って書いている印象です。
悪と結託した腐った所轄警察の話から、オトコを手玉にとる悪女、猟奇殺人を繰り返す変態、スゴ腕のスナイパー、爆弾魔テロリストとの対決などなど、なんでもあり。
そして、このドラマの魅力は、とにかく出演者の「オトナのオトコ達のカッコよさ」にありました。
●藤竜也さん
日活を離れてから久世光彦さん演出の伝説のドラマ「悪魔のようなあいつ」(1975)や大島渚監督のこれまた伝説のハードコア・ポルノ「愛のコリーダ」(1976)などの文芸作品で演技派俳優として地位を確立しつつありましたが、この作品をきっかけに「プロハンター」「ベイシティ刑事」「裏刑事」などハードボイルド&コミカル・アクションの第一人者として活躍しました。
鍛え抜かれた肉体に白いTシャツにジーンズ、赤いVANジャケットスタイルで格闘シーンもガンアクションも、ひたすらカッコ良すぎます。野生的でホントに強そう、ってところが魅力でした。
●沖雅也さん
「太陽にほえろ」のスコッチ刑事(1976〜)としてクールな一匹狼キャラを演じていましたが、本作ではド派手な格闘&ガンアクションを見せます。
どこからどう見ても二枚目のルックスとスタイルの良さだけでなく、アクション&ガンアクションの立ち居振る舞いの美しさは神がかっていました。日活以来の共演となる藤竜也さんは久々に見た沖雅也さんを「鋼の鎧をまとった王子様に見えた」と評しています。
「拳銃」がホントに似合う日本人俳優、ってなかなか存在しないのですが、この時期の松田優作さん、藤竜也さん、沖雅也さんがトップスリーじゃないかと思います。
●柴田恭平さん
監督の村川透さんの強い推薦でミュージカル俳優だった柴田恭兵さんが初の連ドラレギュラー出演を果たしたのが本作です。一刻もじっとしていない、身の軽さとキレはハンパなく、後の派生作品にも出演し、後の「あぶない刑事」での大ブレイクにつながりました。
そのほか、ボス役に説明不要の若大将 加山雄三さん、紅一点の女刑事役に長谷直美さんが活躍します。
ヨコハマが舞台
後の「プロハンター」「あぶない刑事」につながる「港ヨコハマ」か舞台。オープニングではダイヤモンド地下街やみなとみらいのない時代の横浜港の風景、本編でもタイトル通り「追跡シーン」が多いので当時の横浜駅、関内、山手、本牧などの風景がふんだんに見られます。
音楽は大野雄二さん
「大追跡のテーマ」は大野テイストの名曲、ドライブ中に聴くと無意味にスピードを上げてしまうので要注意です。過去、私の主催するライブイベントのテーマに使わせていただきました。
wikiによれば、
「後に同じ日本テレビ系のスポーツ情報番組『独占!!スポーツ情報』のオープニングテーマとして使われ(1990年代中頃)、さらに1980年代終盤にはザ・グレート・カブキの入場テーマにも使われた」
とあります。カブキのテーマは「ヤンキーステーション」が有名ですが、それが定着前に使われたんでしょうかね。初耳でした。
主題歌だけでなくBGMも名曲揃いです。
この作品、当時の出演者の皆さんが口を揃えて「自由で楽しい現場だった」と言っていますし、それが画面から溢れています。柴田恭平さんのアドリブでうまれたといわれる「オットー」という謎の合言葉は、後の派生作品でも唐突に登場したりします。
ヨコハマ、タバコ、クルマ、そして酒とオンナと拳銃。実にハードボイルドなこんなドラマは、この時代ならではのもので、無菌状態な現代ではもう、再現不能ですし、演じる俳優さんももやは絶滅ですね。
コメント
「大追跡」は自分も大好きな刑事ドラマでした。これ以上ないセンスのいいキャスティングですね。台詞もオシャレで、特に藤竜也さんと柴田恭平さんの会話は、往年の名作「0011ナポレオン・ソロ」のロバート・ボーンとデビッド・マッカラムのそれを彷彿させます。刑事ドラマ?では、この「大追跡」と松田優作さんの「探偵物語」が、センスがいい作品だと思いました。ドラマを見なくなって久しいですが(笑)
なるほど、「ナポレオン・ソロ」ですか。懐かしいですね!海外のいわゆる”バディもの”がモチーフなんでしょうかね。